中国の人力資源・社会保障部など5部門（人力資源・社会保障部、財政部、国家税務総局、金融監督管理総局、証券監督管理委員会）は2025年8月19日、個人養老金（年金）受給に係る事項に関する通知を発表し、受給条件や申請方法を明確化しました。この制度整備は中国の社会保障制度の充実と高齢化社会対応における重要な政策展開として注目されています。
【中国年金制度の構造と個人年金の位置づけ】 中国の養老保険（年金）制度は3つの柱で構成されています：第1の柱は強制加入の基本養老保険（都市従業員基本養老保険と都市・農村住民基本養老保険を含む）、第2の柱は任意加入の企業年金・職業年金、第3の柱は個人向けの商業保険です。今回の通知で整備された個人年金は第3の柱に相当し、公的年金を補完する私的年金制度として個人の老後所得保障の多様化・充実化を図るものです。
【受給条件の体系化と拡充】 通知では個人年金の受給条件として6つのケースを明確に規定しました：
- 基本年金受給年齢到達: 従来の退職年齢に連動した標準的な受給開始
- 労働能力完全喪失: 障害等により就労継続が困難な場合の早期受給
- 国外定住: 海外移住に伴う資産清算の必要性に対応
- 高額医療費支出: 年金受給申請日前12カ月間に本人・配偶者・未成年子の基本医療保険関連医療費支出で、医療保険払い戻し後の自己負担額累計が当該省の前年度住民1人当たり可処分所得を超過した場合
- 長期失業: 年金受給申請日前2年間の失業保険金受給が12カ月分を超過した場合
- 最低生活保障受給: 都市・農村の最低生活保障金受給者
この多様な受給条件設定により、退職年齢到達前でも生活困窮や予期せぬ事情に対応できる柔軟な制度設計が実現されています。
【申請手続きのデジタル化と利便性向上】 受給申請は複数のチャネルで可能となっており、デジタル化による利便性向上が図られています：
- オンライン申請: 社会保険公共サービスプラットフォーム等の全国統一オンラインサービス窓口
- 銀行窓口: 個人年金口座を開設した銀行での申請
- 社会保険機関: 基本年金関係所在地の社会保険運営機関での申請
申請処理プロセスも標準化されており、各社会保険運営機関が申請を受領後、確認を経て個人年金情報管理サービスプラットフォームにアップロードし、同プラットフォームが各申請チャネルを通じて結果通知を行う一元管理体制が構築されています。
【受給方法の柔軟化と資産承継】 受給方法については個人のニーズに応じた選択肢が提供されています：
- 月払い: 定期的な生活費補完
- 分割払い: 計画的な資産活用
- 一括払い: まとまった資金需要への対応
また、受給者死亡時の個人年金口座内資金は相続可能とされており、世代を超えた資産形成支援機能も備えています。
【税務管理の強化と透明性確保】 個人年金資金口座を開設した市の商業銀行機関には、個人年金受給加入者の納税状況について全員分かつ全額分の明細申告義務が課されており、税務管理の透明性と適正性が確保されています。これにより個人年金制度と税制の整合性を保ち、制度運営の健全性を担保しています。
【政策的背景と社会経済的意義】 この制度整備は以下の中国の構造的課題への対応策として位置づけられます：
- 急速な高齢化: 2025年には65歳以上人口が総人口の20%を超える超高齢社会への移行
- 社会保障制度の持続可能性: 基本年金制度の財政負担軽減と多層化
- 格差是正: 医療費負担や失業等の社会的リスクに対するセーフティネット強化
- 金融市場発展: 個人の長期投資資金としての資本市場への資金流入促進
【日系企業への影響と機会】 この制度整備は中国に進出する日系企業にとって以下の意味を持ちます：
- 人材確保: 充実した年金制度による従業員の福利厚生向上と人材定着
- 市場機会: 年金運用・保険商品・資産管理サービス分野での事業展開可能性
- 制度理解: 現地従業員の年金制度変更に対する適切な情報提供・説明責任
2025年9月1日の施行により、中国の個人年金制度はより利用しやすく包括的な制度として発展し、14億人を超える人口を抱える中国社会の持続可能な発展と個人の生活安定に重要な役割を果たすことが期待されています。