インド西部マハーラーシュトラ州ムンバイで2025年8月20~22日、食品・飲料の国際展示会「アヌーガ・セレクト・インディア(ANUGA SELECT INDIA)2025」がボンベイ・エキシビション・センターで開催され、ジェトロが「Japan Street」広報ブースを設置して日本産食品・飲料の現地市場展開を支援しました。この展示会は、インド食品市場における日本企業の存在感向上と商談機会創出において重要な戦略的意義を持つものです。
【展示会の規模と意義】 同展示会は食品加工・包装技術を扱う「アヌーガ・フードテック・インディア」と同時開催され、製品と技術の両面を対象とした国際的な商談プラットフォームとして機能しました。2024年の来場者数は2万7,705人を記録しており、インド食品業界における最重要イベントの一つとして定着しています。今回は悪天候にも関わらず多数の業界関係者が来場し、インド市場における食品ビジネスへの関心の高さを示しました。
【気候条件と市場アクセスの課題】 開催期間中のムンバイはモンスーン期の大雨に見舞われ、各地で洪水・停電が発生し、主要道路や高速道路で深刻な渋滞が続きました。これらの物流・アクセス上の制約は、インド市場進出を検討する日本企業にとって重要な事業環境リスクとして認識すべき課題です。インフラ整備の遅れや気候変動の影響は、サプライチェーン管理や流通戦略の策定において十分な対策が必要であることを示しています。
【ジェトロの市場開拓支援機能】 ジェトロは会場内に「Japan Street」広報ブースを設置し、日本企業12社の商品紹介と試食を実施しました。Japan Streetは海外バイヤーとの商談・取引機会創出を目的としたオンラインカタログサイトで、ジェトロが招待したバイヤーのみが閲覧可能な限定プラットフォームです。この仕組みにより、質の高いバイヤーとの効率的なマッチングを実現し、日本企業の海外展開における重要なインフラ機能を提供しています。
【インド市場特有の規制・文化的課題】 現地関係者からは原材料や動物性由来成分に関する詳細な質問が多数寄せられました。インドでは包装食品への「ベジタリアン(緑マーク)/ノンベジタリアン(赤マーク)」表示が法令で義務付けられており、卵を含む場合もノンベジタリアンに分類されます。この厳格な成分表示要件は、宗教的・文化的配慮に基づくものであり、消費者・バイヤーが極めて重視している事項です。日本企業がインド市場に参入する際は、この表示制度への対応が避けて通れない必須要件となります。
【日本食材流通の現状と課題】 日本食材の流通は依然としてホテル・レストラン等の業務用が中心で、一般小売への浸透は限定的な状況です。これは価格競争力、認知度不足、流通網の制約等が複合的に影響していることを示しています。ただし、デリーやムンバイなどの大都市部では高級スーパーでの取り扱いが徐々に増加傾向にあり、健康志向や多様な食文化への関心の高まりを背景とした市場変化の兆しが見られます。
【消費者行動と市場拡大の可能性】 インドの消費者の食習慣は伝統的・保守的な側面が強く、新しい食品の普及には相当な時間を要することが予想されます。しかし、経済成長に伴う中間層の拡大、都市化の進展、若年層の価値観変化、健康・栄養への意識向上等により、中長期的には日本食品に対する需要拡大の余地が大きいと期待されています。
【戦略的含意と今後の展開方向】 この展示会参加を通じて明らかになった日本企業のインド市場進出における重要な戦略課題:
- 規制対応の重要性: 宗教的・文化的配慮を含む厳格な表示制度への適応
- 流通戦略の多様化: 業務用中心から一般消費者向け小売流通への段階的拡大
- ブランド認知度向上: 継続的なマーケティング投資による日本食品の価値訴求
- 現地パートナーシップ: インド企業との戦略的提携による市場参入加速
- 長期的視点: 市場開拓に要する時間軸を考慮した持続可能な事業計画策定
この取り組みは、インド経済の高成長と人口ボーナスを背景とした巨大市場における日本の食品産業の競争力強化と、アジア太平洋地域での食品輸出拡大戦略の重要な一環として位置づけられています。