中国のテクノロジー企業バイトダンス(ByteDance)が運営するショート動画アプリ「TikTok」が、2025年8月31日、インドの首都ニューデリー近郊グルグラムのオフィスで求人募集を開始したと報じられました。しかし、インド政府は同アプリの利用再開許可を否定しています。
TikTok禁止の経緯
インド政府は2020年6月、中国軍との軍事衝突を受け、国家安全保障上の観点からTikTokを含む59個の中国製アプリの使用を禁止しました。禁止措置は既に5年以上継続しており、インドの巨大市場へのアクセスを失ったバイトダンスにとって大きな打撃となっています。
禁止前のインドはバイトダンスにとって極めて重要な市場でした:
- 約2億人のTikTokユーザーを抱える世界第2位の市場
- 2020年3月までの累計ダウンロード数は6億1,100万件
- 全世界のダウンロード数の約3割を占めていた
求人募集の意図と政府の反応
バイトダンスがインドでの求人募集を開始したことで、同社のウェブサイトは一部アクセス可能となりました。これは、同社がインド市場への復帰を模索している可能性を示唆しています。
しかし、インド政府関係者は明確にTikTokの再開に関する許可は出ていないと表明しており、アプリの禁止措置は継続されています。求人募集だけでは、アプリの利用再開には直結しない状況です。
中印関係改善の兆候
一方で、中印関係には改善の兆しも見られます。2025年8月18日から19日にかけて、中国の王毅・中国共産党中央政治局委員兼外交部長(外相)がインドを訪問し、ナレンドラ・モディ首相やスブラマンヤム・ジャイシャンカール外相らと会談しました。
この訪問では、両国間の協力関係発展が強調され、関係回復に向けた前向きな動きが確認されています。このような外交的な進展が、将来的にTikTokの禁止解除につながる可能性も完全には否定できません。
インドのショート動画市場への影響
TikTok禁止後のインドでは、代替サービスが急速に市場シェアを獲得しました:
国際的プラットフォーム:
- Instagram Reels(Meta社)
- YouTube Shorts(Google社)
国産アプリ:
- Moj(ShareChat社)
- Josh(VerSe Innovation社)
もしTikTokが再開された場合、これらの競合サービスが築いた市場シェアとの激しい競争が予想されます。5年以上の空白期間を経て、TikTokが以前の市場地位を取り戻すことは容易ではないでしょう。
今後の展望
バイトダンスの求人募集は、同社がインド市場への復帰を諦めていないことを示しています。しかし、国家安全保障を理由とした禁止措置の解除には、政治的な判断が必要であり、企業の努力だけでは限界があります。
中印関係の改善が進めば、TikTokを含む中国製アプリの規制緩和の可能性も出てくるかもしれませんが、現時点では政府の姿勢は依然として慎重です。