離島における子どもたちが主体となった海洋環境保全活動について報告したものです。この記事は愛知県西尾市交流共創部佐久島振興課課長補佐の三矢由紀子氏による、三河湾に浮かぶ人口170人の佐久島で23年間継続されているアマモ再生活動の取り組みについて紹介したものです。佐久島は愛知県内の有人離島3島中最大の島で、海岸総延長約11kmを有し、縄文時代から人の営みがあった歴史ある島ですが、観光ニーズの多様化と開発計画の停滞により、かつて1,600人だった人口が現在170人まで減少し、少子高齢化が深刻な問題となっています。
1996年に現代アートによる島おこしがスタートし、同時に島民で構成された「島を美しくつくる会」が発足しました。アート事業を通じて島民は黒壁集落やスイセンなどの風景の価値を再認識し、海や里の環境保全、景観保存に力を入れるようになりました。これらの活動として黒壁集落保存、里山整備、海岸ごみ回収、アマモ場再生活動が展開され、島外の人々の協力を得ながら実施されています。
教育面では、過疎化による児童数減少に対し、2003年度に「しおかぜ通学」制度が導入され、本土側からの通学者を受け入れるようになりました。2019年4月からは愛知県初の義務教育学校「佐久島しおさい学校」が開校し、現在全校生徒21人のうち島在住は5人、半数以上を「しおかぜさん」と呼ばれる本土通学者が占めています。
アマモ再生活動は2002年に1人の生徒の「自分たちの海は自分たちで守れるような漁師になりたい」という想いから始まりました。生徒が魚の減少原因を探る中でアマモに着目し、漁師から「昔は辺り一面アマモだらけだった」という証言を得て、海を豊かにするにはアマモの増殖が必要との結論に至りました。活動開始当初は愛知県水産試験場の指導を受けながら種子からの栽培に取り組み、3年目には成功率の高い「麻袋方式」を確立しました。この方法では、ミシンで作った麻袋にアマモの種子を混ぜた砂を入れ、波や砂の移動が少ない沖に沈める手法を採用しています。
また、生育旺盛な場所からのアマモ根の移植も併用し、新しい繁殖場所の拡大に成功しています。この活動を通じて生徒たちは、海の環境保全だけでなく山の環境保全も生物多様性維持に必要であることを理解し、活動の幅を広げています。年間を通じてアマモを教材とした学習により、島の自然への愛着と自分たちの活動の社会的価値への理解が深まり、子どもたちのモチベーション向上につながっています。
卒業予定の生徒からは「佐久島は私のふるさとです。この活動を通して島の良さをもっと多くの人に知ってもらい、島が今までと変わらないふるさとであってほしい」との声が聞かれています。記事は、23年間継続したアマモ保全活動が海の保全・再生と学びの場を同時に創出してきた成果を誇りとし、人口減少に直面する離島振興の重要な柱として、この取り組みを継続していく決意を示していると結論づけています。