ITとデータの可視化技術を活用した海洋ごみ問題の解決手法について解説したものです。この記事は株式会社ピリカ代表取締役の小嶌不二夫氏による、AI技術とスマートフォンを活用した革新的なごみ調査・回収システムの開発と実践について紹介したものです。世界では年間800万トンものプラスチックごみが海に流入し、生態系や食生活に深刻な影響を与えている中、最大の課題はごみの流出経路や分布が十分に把握されていないことです。
ピリカが開発した中核技術「タカノメ」は、スマートフォンのカメラを使って陸域（特に道路上）のごみを自動検出し、その位置や種類をリアルタイムでデータ化するシステムです。このシステムは山口県、三重県、熊本県などで導入されており、自治体や研究機関との共同調査を通じて陸域からのごみ流出実態の把握と分布データの収集に活用されています。一般社団法人ピリカでは、日本財団「海と日本プロジェクト」の支援を受け、100台以上の車両（ごみ収集、交通、物流企業）にタカノメを搭載し、全国規模でのデータ収集を実施しています。
国際展開も積極的に進められており、2024年から三井物産共創基金の支援を受けて東南アジア・欧州・北米での調査を拡大しています。特に米国では、ハワイ・ダラス・ボストンでの分布調査に加え、ごみと犯罪発生率の相関研究も実施され、治安向上への応用も期待されています。また、JICA（国際協力機構）との連携によりペルーの首都リマ市では、1.5立方メートルを超える大型ごみの堆積・散乱問題に対し、タカノメを自治体職員や地元企業の車両に設置してリアルタイム検知による早期回収の実証実験を展開しています。
市民参加型の取り組みとして、ピリカが提供するごみ拾いSNS「ピリカ」は世界130か国以上で利用され、累計4億個以上のごみが回収されています。これは市民がごみ拾いの様子を写真とともに投稿し、相互に感謝とコミュニケーションを楽しむプラットフォームです。タカノメとSNSピリカの技術融合により、調査で得られたごみ分布データがオープンデータとして無償公開され、市民は自分の周囲のポイ捨てスポットを知ることができます。
実証効果として、「ごみ拾い×幸福度診断」調査では、ごみ拾い後に幸福度が向上することが確認されています。山口県周南市では、地元企業がタカノメデータを基にしたごみ拾いを実施し、回収量が3倍に増加した実績があります。データの見える化により、ポイ捨てしやすいエリアの特定、効果的な回収計画の策定、地域住民の環境意識向上、環境教育プログラムの開発が可能になっています。
記事は、海洋ごみ問題の解決には企業（環境配慮型製品開発・プラスチック削減）、自治体（データ活用型ごみ管理施策・効果的削減政策）、市民（日常的なごみ拾い・適切な廃棄）の三者連携が不可欠であり、ITによるデータの可視化がその基盤となると結論づけています。