調査の目的と範囲 経済産業省が国際エネルギー情勢の変化と日本のエネルギー安全保障への影響を分析し、中長期的なエネルギー政策の方向性を検討するために実施した専門調査の報告書です。ウクライナ情勢、中東情勢、米中対立等の地政学的リスクがエネルギー供給チェーンに与える影響を定量的に分析し、リスク対応策を提言しています。
国際エネルギー市場の動向 2024年の世界エネルギー需要は前年比2.8%増の168.5億トン(石油換算)となり、特にアジア地域の需要が全体の45.3%を占めています。原油価格は地政学的リスクにより1バレル当たり85-110ドルの高水準で推移し、LNG価格も前年比35.2%上昇しました。日本のエネルギー輸入依存度は88.6%で、特に中東からの原油輸入が全体の92.4%を占める高い集中度となっています。
リスク評価と脆弱性分析 報告書では、日本のエネルギー供給の脆弱性を5段階で評価し、原油・LNGともに最高リスクレベルの「5」と判定しています。特にホルムズ海峡経由の石油輸送が年間1.8億トンに達し、単一輸送ルートへの依存度が極めて高いことが判明しました。また、重要鉱物(リチウム、コバルト等)の中国依存度は75.8%に達し、エネルギー転換における新たなリスク要因となっています。
政策提言と対応策 エネルギー安全保障強化に向けて、石油・LNG備蓄の拡充(現行180日分から240日分)と、調達先多角化の推進を提言しています。具体的には、年間2,000億円規模のエネルギー安全保障基金の創設により、アフリカ・南米からの新規調達ルート開拓を支援し、中東依存度を現在の92.4%から70%以下に低減することを目標としています。また、再生可能エネルギーの国産化率向上により、エネルギー自給率を現在の11.2%から2030年に30%まで引き上げるとしています。