地域メッシュ統計を用いて、居住者と就業者の違いを区別した密度の経済による賃金プレミアムについて実証分析を行ったものです。
従来の密度の経済に関する研究では、居住者と就業者の集積が混在したまま議論されることが多く、コンパクトシティ政策と産業立地政策の両者を結びつけるような重要な政策的示唆を導き出すことが困難でした。日本の人口減少が進む中、居住地としての魅力が低下したとしても、依然として企業誘致の観点から潜在的に魅力の高い地域も存在します。しかし、政策議論が過度に居住の側面のみに焦点を当てる場合、産業クラスターの活性化における地域の潜在性が軽視される可能性があります。
本研究では、このギャップを埋めるため、製造業事業所データと、居住者および労働者の地域メッシュ統計を統合した詳細なデータセットを構築し、統計分析を実施しました。地域メッシュ統計は、日本全国を約1km四方の格子状に区切った詳細な地理的単位でのデータであり、これにより局所的な集積効果をより精密に測定することが可能となります。
分析の結果、製造業における賃金プレミアムの主要な決定要因は、人口集積ではなく、局所的な雇用集積であることが明らかになりました。具体的には、同一地域メッシュ内における雇用密度が高い地域では、そうでない地域と比較して有意に高い賃金水準が観察されました。この効果は、周辺地域の人口密度をコントロールした後でも頑健に観察され、雇用集積そのものが賃金に与える独立した効果を持つことが示されました。
この発見は重要な政策的含意を持っています。居住の観点からのみ進めるコンパクトシティ政策だけでは地方創生を達成することは不十分であり、高賃金で魅力的な雇用創出のためには、局所的な雇用集積につながる産業立地政策が重要な役割を果たすことを示唆しています。つまり、人口減少下においても、戦略的な産業クラスターの形成により、地域の経済的活力を維持・向上させることが可能であることを実証的に示しています。
記事は、地方創生政策において、居住政策と産業政策を統合的に考える必要性を強調し、特に局所的な雇用集積の形成が地域経済の活性化において重要な役割を果たすことを結論づけています。