ビジネス・グループと知識フロー:買収イベントによる分析
企業の買収による子会社化がビジネス・グループ内の知識フローに与える影響について、経済産業省企業活動基本調査と特許データを用いて実証分析を行ったものです。
日本では研究開発投資の約3割を子会社が担っており、ビジネス・グループ内の知識フローの解明は企業経営とイノベーション政策の両方にとって重要な課題となっています。しかし、従来研究では企業選択のセレクション効果と実際のグループ化による措置効果を区別した分析は十分に行われていませんでした。
本研究では、経済産業省企業活動基本調査と知的財産研究所(IIP)の特許データベース(IIP-DB)を結合したパネルデータを構築し、企業間の特許引用関係を通じて知識フローを測定しました。分析対象企業間の出願特許の引用関係を詳細に追跡し、どの企業からどの企業へ、どれだけの知識がどの程度の速度で流れているかを定量化しています。
分析結果によると、子会社においては先行技術の所在先の約2割が親会社を含めたグループ内の他企業であり、これは先行技術における自社の頻度と同程度の高い水準でした。また、子会社の発明の先行技術としての利用先においても約2割がグループ内の他企業となっており、グループ内企業のシェアは比較的高いことが確認されました。
買収による知識フローへの影響については、親子関係になる前から親会社からの知識フローにセレクション効果(0.213)が存在し、実際に親子関係になってからの追加的な措置効果も0.164と有意に認められました。さらに、子会社から親会社への知識フローについても措置効果(0.155)が有意であることが判明し、双方向の知識フローが促進されることが実証されました。
知識フローの速度についても分析が行われ、自己引用は他の引用関係に比べて引用ラグが約21%短く、親会社から子会社への知識フローではセレクション効果7%、措置効果1%、子会社から親会社への知識フローではセレクション効果約4%、措置効果約10%の速度向上が確認されました。
記事は、買収による子会社化が知識フローの水準を増加させるとともにスピードを加速させる効果があり、この効果は部分所有でも完全子会社化と同様に発現することを実証的に示したと結論づけています。