大規模抗議デモの発生と背景
インドネシア各地で8月下旬、国民議会(DPR)議員への月額5,000万ルピア(約45万円、1ルピア=約0.009円)の高額住宅手当支給に対する反発から大規模な抗議デモが発生した。8月25日にジャカルタで始まった学生中心のデモは全国の主要都市に拡散し、28~29日には労働組合など他の団体も合流して抗議が激化、一部地域では治安部隊との衝突で死傷者も出る事態となった。
デモ激化の要因:
- 8月28日のジャカルタ中心部で機動隊車両が抗議に参加していなかったオートバイ運転手をひいて死亡させる事件が発生
- その映像が拡散されたことで警察の暴力への批判が一層高まった
プラボウォ大統領の対応措置
抗議活動の激化を受け、プラボウォ・スビアント大統領は段階的な対話と政策修正を実施した。
8月31日の緊急協議:
- DPR指導部や政党党首らと緊急協議を実施
- 議員住宅手当の即時廃止を決定
- 国会議員による海外出張の当面禁止
- 抗議者を「愚か」と呼ぶなど不適切発言で批判を招いた数人の議員の議員資格を剥奪
9月1日の労働組合との対話:
- 大統領宮殿で労働組合代表と面会
- 全インドネシア労働組合連合(KSPSI)のアンディ・ガニ会長やインドネシア労働組合連合(KSPI)議長のサイド・イクバル氏らが出席
- 抗議活動の非暴力維持を確認
- 犯罪行為による資産の接収法案や雇用関連法案の早期審議を要望
「17+8の要求リスト」と政府対応
抗議活動の激化過程で、インターネット上では政府・議会への具体的な要望をまとめた「17+8の要求リスト」が拡散された。これはインフルエンサーや市民活動家らが複数の市民・労働・学術団体の意見を取りまとめて発信したもので、以下の内容から構成されている:
短期要求(17項目):
- 議員給与・手当の凍結
- 警察暴力の独立調査など
長期要求(8項目):
- 2026年8月末までの議会改革
- 公正な税制改革など
ムハンマド・ティト・カルナビアン内務相は9月2日、同要求リストについて政府内でどの項目が対応可能かを整理した上で、関係省庁間で調整する方針を明らかにした。
経済活動への影響と今後の展望
ジャカルタ特別州政府が9月1日と2日の在宅勤務を推奨したため、日系企業でも在宅勤務を実施する動きが見られた。9月3日以降は多くの企業で通常運営に戻っている。ジャカルタ市内での抗議デモは落ち着きつつあるが、今後も政府が労働組合や市民社会の要求をどこまで政策に反映するかが焦点となる。