IPAが実施した「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2024年度)」は、デジタル変革時代における企業と個人のスキル開発・人材育成の現状と課題を包括的に分析した大規模調査です。
調査概要では2025年2月10日から3月28日にかけて国内企業1,535社を対象とした企業調査と、2月17日から3月11日にデジタル人材1,454名を対象とした個人調査を実施し、「デジタル時代における人材の適材化・適所化の推進」を主要テーマとして分析を行いました。
企業のデジタル人材確保状況では、調査対象企業の78.3%がデジタル人材不足を感じており、特に「データサイエンティスト」(不足率89.2%)、「AIエンジニア」(同85.7%)、「セキュリティエンジニア」(同82.4%)の不足が深刻です。従業員規模別では大企業(1,000人以上)で84.1%、中小企業(300人未満)で72.8%の不足率となっています。
スキル変革の取り組み状況では、86.4%の企業が何らかのデジタルスキル向上施策を実施しており、主な取り組みは「外部研修・セミナーの受講支援」(73.2%)、「社内勉強会・研修の実施」(68.7%)、「資格取得支援」(61.9%)となっています。年間研修予算は平均約1,850万円で、従業員一人当たりでは約12.3万円を投入しています。
個人のスキル開発状況では、デジタル人材の91.7%が継続的な学習を実施しており、平均的な学習時間は月間約18.5時間となっています。学習分野では「プログラミング・開発技術」(67.2%)、「データ分析・AI/ML」(58.9%)、「クラウド技術」(52.3%)が上位を占めています。自己投資額は年間平均約28.7万円で、うち書籍・教材費が約12.1万円、研修・セミナー参加費が約16.6万円となっています。
成果と課題では、スキル変革に積極的な企業の82.6%で「業務効率化の実現」、75.3%で「新サービス・製品の開発促進」、68.1%で「従業員エンゲージメント向上」の効果を確認しています。一方、課題として「適切な学習コンテンツの選択困難」(64.7%)、「学習時間の確保困難」(59.2%)、「実践機会の不足」(55.8%)が挙げられています。
デジタルリテラシーの現状では、基本的なデジタルツール活用能力を測定した結果、全従業員の平均スコアは100点満点中67.2点となり、2023年調査の62.8点から4.4ポイント向上しています。職種別では「IT・システム部門」が84.3点と最高で、「営業・販売部門」が58.7点と最低となっています。
リスキリング推進状況では、67.9%の企業がリスキリング・プログラムを導入済みで、対象職種は「営業・マーケティング」(45.2%)、「企画・管理部門」(41.7%)、「製造・技術部門」(38.9%)の順となっています。リスキリング対象者のうち82.3%で職務変更や昇進等の成果を確認しており、投資効果は平均的に約3.2倍のROIを実現しています。
外部連携の活用では、78.1%の企業が大学・専門学校、研修事業者、コンサルティング会社等との連携を実施しており、特に「実践的なカリキュラム開発」(56.4%)、「講師・メンター派遣」(48.7%)、「インターンシップ・共同研究」(33.9%)で成果を上げています。
人材評価制度の変化では、73.5%の企業でデジタルスキルを人事評価に反映する制度を導入しており、「スキル習得に応じた昇給・昇格」(62.1%)、「プロジェクト成果による賞与査定」(47.8%)、「資格取得インセンティブ」(41.3%)を実施しています。
今後の方向性では、企業の89.2%が「継続的なスキルアップデート体制の構築」を重要課題と位置づけ、「個人の自律的学習支援」(76.8%)、「実務直結型研修の充実」(71.4%)、「外部専門機関との連携強化」(65.9%)に取り組む方針です。
政策的示唆では、デジタル人材育成の加速に向けて「産学官連携による実践的教育プログラムの拡充」、「中小企業向けデジタル人材育成支援の強化」、「継続的学習を促進する制度・環境の整備」、「デジタルスキルの標準化・可視化」等が重要な政策課題として提言されています。
記事は、デジタル時代における持続的な競争力確保には企業と個人が協働してスキル変革に取り組むことが不可欠であり、継続的な学習文化の醸成と実践的な能力開発支援体制の構築が成功の鍵であると結論づけています。