日本銀行熊本支店が発表した「管内金融経済情勢（2025年8月）」は、熊本県を中心とする九州管内の最新の金融・経済動向を詳細に分析した月次報告書です。
管内経済の総括判断では、個人消費の回復と設備投資の増加により、景気は「緩やかな回復基調を続けている」との判断を維持しています。2024年第2四半期の実質域内総生産（GRP）成長率は前期比年率+2.1%となり、全国平均（+1.8%）を上回る成長を記録しました。
個人消費の動向では、百貨店・スーパーの売上高が前年同月比+3.8%と5か月連続の増加となり、特に高額品・ブランド品（+12.4%）、家電製品（+8.7%）が好調でした。新車登録台数は前年同月比+6.2%と回復傾向にあり、軽自動車の販売が全体を押し上げています。宿泊・観光関連では、県内主要ホテルの宿泊者数が前年同月比+15.3%と大幅増加し、インバウンド需要（同+48.7%）の回復が顕著です。
設備投資では、管内企業の2024年度設備投資計画が前年度比+11.8%の増加となり、製造業（+15.2%）、非製造業（+8.9%）ともに堅調です。業種別では半導体関連製造業（+28.4%）、観光・宿泊業（+19.7%）、建設業（+12.3%）が上位となっています。特に台湾積体電路製造（TSMC）熊本工場の本格稼働により、関連サプライチェーンの投資が活発化しています。
生産活動では、鉱工業生産指数（季節調整値）が前月比+4.2%と3か月連続の上昇となりました。業種別では電子部品・デバイス工業（+18.7%）、輸送機械工業（+9.3%）、食料品工業（+5.8%）が主要な押し上げ要因となっています。半導体製造装置の需要増加により、精密機械工業も前月比+11.4%の大幅増となりました。
雇用情勢では、有効求人倍率が1.52倍（前月比+0.03ポイント）と8か月連続の改善を記録し、全国平均（1.24倍）を大幅に上回っています。新規求人数は前年同月比+8.9%増加し、特に製造業（+15.3%）、建設業（+12.7%）、宿泊・飲食業（+11.4%）で求人が増加しています。完全失業率は2.1%（前年同月比-0.3ポイント）と低水準を維持しています。
物価動向では、消費者物価指数（除く生鮮食品）が前年同月比+2.4%と、日本銀行の物価安定目標を上回って推移しています。項目別では電気・ガス料金（+8.7%）、食料品（+3.1%）、サービス（+1.9%）が上昇要因となっています。企業物価指数は前年同月比+3.6%と高い伸びを示し、原材料価格上昇の影響が継続しています。
金融情勢では、管内銀行の貸出残高が前年同月比+3.2%増加し、設備資金（+4.8%）、運転資金（+2.1%）ともに増加しています。業種別では製造業向け（+8.1%）、不動産業向け（+5.9%）、宿泊・飲食業向け（+4.7%）が高い伸びを示しています。預金残高は前年同月比+4.1%増加し、個人預金（+3.8%）、法人預金（+4.6%）ともに堅調に推移しています。
地域別動向では、熊本市を中心とした県央地域で半導体関連投資により活況を呈しており、県北地域では農業・食品加工業、県南地域では観光・サービス業が好調です。阿蘇地域では観光需要の回復により、宿泊業・飲食業の業況が大幅に改善しています。
先行きの見通しでは、TSMC効果による関連産業の集積加速、インバウンド需要の本格回復、政府の半導体戦略による追加投資等により、当面は堅調な成長が続くと予想されています。一方、人手不足の深刻化、資材価格の上昇、国際的な半導体市場の動向等がリスク要因として挙げられています。
特記事項では、「シリコンアイランド九州」復活に向けた取り組みが本格化しており、熊本県内では半導体関連企業の新規立地・増設投資が相次いでいます。関連する人材育成、インフラ整備、住宅確保等の課題への対応も急務となっています。
記事は、管内経済が半導体産業を牽引役とした構造変化の中で堅調な成長を続けており、持続的な発展に向けて人材確保・育成とインフラ整備が重要な課題であると結論づけています。