農林水産政策研究所が2025年7月31日に発行した学術レビュー誌第126号で、水産業の鮮度管理技術、世界食料需給見通し、農村地域の将来予測など、農林水産分野の最新研究成果を紹介したものです。
巻頭言では、東京大学大学院農学生命科学研究科の阪井裕太郎准教授が「鮮度の見える化が水産業の未来を変える」と題して、水産物の鮮度管理における最新技術の重要性について論じています。これまで水産業界では経験と勘に頼っていた鮮度判定を、IoTセンサーやAI画像解析により定量化・可視化する技術革新が進んでおり、これらの技術導入により水産物の品質向上と流通効率化が期待されることが示されています。
研究成果として、国際領域チームによる「2034年における世界の食料需給見通し」では、穀物・油糧種子の実質価格がマイナス成長となる予測が発表されています。世界人口が2034年に87億人に達する中で、農業生産性の向上により穀物生産量は年平均1.2%増加し、需要の年平均1.0%増加を上回ることで、小麦、とうもろこし、大豆の実質価格が2024年比でそれぞれ8%、12%、15%下落すると予測されています。
農村地域の将来予測では、農業・農村構造プロジェクトが実施した詳細分析により、2050年までに農村地域人口が現在比で35%減少し、農業集落数も全国で約12,000集落(全体の約30%)が消滅する可能性が示されています。特に中山間地域では人口減少率が45%に達するなど、地域差が顕著に現れることが明らかになっています。
研究レビューでは、農業委員会や農協における女性参画の現状について、全国の農業委員会で女性委員の割合が2024年時点で14.8%(前年比1.2ポイント増)、農協役員では8.3%(前年比0.7ポイント増)と緩やかな改善が見られるものの、政府目標の30%には大きく及ばない状況が分析されています。
記事は、農林水産分野における技術革新と社会変化を多角的に分析し、政策立案や実務者の意思決定に資する科学的根拠を提供していると結論づけています。