財貿易の基本構造
米国の2024年の財貿易は1兆2,154億ドルの世界最大規模の赤字を記録しており、これは2位の英国（2,887億ドル）を大幅に上回る水準である。一方、サービス貿易では3,119億ドルの世界最大の黒字を維持しており、財・サービス合計の貿易収支は9,035億ドルの赤字となっている。貿易規模では、財輸出が2兆798億ドル、財輸入が3兆2,952億ドルに達している。
対GDP比で見ると、財貿易収支対GDP比は2010年以降3%から7%の赤字幅で横ばい推移を続けており、サービス収支対GDP比は0.8%から1.5%の黒字で安定している。この構造的な財貿易赤字は、米国経済の成長阻害要因とはなっていないことが特徴的である。
品目別の貿易構造では、工業原材料分野でエネルギー・燃料の輸出が3,382億ドル（工業原材料輸出の46.5%）、輸入が2,555億ドル（工業原材料輸入の37.8%）となっている。金属・鉱物等では輸出1,324億ドル、輸入1,879億ドルで、主要相手国はカナダとメキシコである。化学品では輸出1,429億ドル、輸入974億ドルと輸出超過を維持している。
飲食料品貿易では、対メキシコで穀物・飼料115億ドル、畜産物102億ドルを輸出し、野菜・果物・ナッツ230億ドル等を輸入している。対カナダでは穀物・飼料76億ドル、畜産物112億ドルを輸出し、野菜・果物・ナッツ82億ドル等を輸入する相互補完的な構造を形成している。
重力モデルを用いた財貿易の分析
重力モデル分析により、米国の貿易量は貿易相手国のGDPに比例し、地理的距離に反比例する基本法則に従うことが確認されている。特に地理的近接性の影響は顕著で、NAFTA諸国であるカナダとメキシコとの密接な貿易関係がこれを裏付けている。
カナダは米国のエネルギー・燃料輸入において約半分を占める最重要供給国であり、アルミニウム（世界第4位の生産国）や金属鉱物の主要供給国でもある。メキシコは野菜・果物・ナッツ分野での重要な輸出国であると同時に、金属鉱物の重要な貿易相手国として機能している。
重要鉱物の貿易構造では、アルミニウムについてカナダからボーキサイト・アルミナを含む形での輸入が多数を占めており、銅についてはチリ（世界第1位の生産国）からの輸入が中心となっている。ただし、精錬・加工プロセスは中国に集中しており、サプライチェーンの脆弱性が指摘されている。
第二次トランプ政権は2025年に包括的な関税措置を導入しており、就任直後から幅広い国・品目に追加関税を課している。4月2日には「相互関税」制度（基本税率10%に国別上乗せ税率を加算）を導入し、第一次政権と比較してより広範囲かつほぼ全ての国を対象とする措置を実施している。
この重力モデル分析は、地理的・経済的要因に加えて制度的要因（貿易協定、言語共通性）と資源賦存の相互補完性が米国の貿易フローを決定する主要因子であることを示している。特に貿易協定の存在と言語・文化的共通性は、単純な距離効果を超えた貿易促進効果を持つことが確認されている。