内閣府が公表した「世界経済の潮流2025年Ⅰ」の第2章第3節において、米国のサービス貿易構造と所得・投資構造の変化について詳細に分析したものです。
サービス貿易の競争力構造
米国のサービス貿易は一貫して黒字を継続しており、特にデジタル・知財サービス分野で強力な競争力を発揮しています。サービス輸出全体に占めるデジタル・知財サービスの割合は41%以上に達し、主要項目として「コンサルティングサービス・R&D等」「知的財産権使用料」「情報通信サービス」「金融サービス」が挙げられています。
特筆すべきは、アイルランド向けサービス輸出の急拡大で、897億ドル(第3位)に達し、デジタル・知財サービスの輸出シェアが89%を占めています。2014年から124%増加しており、全世界平均の71%増を大幅に上回る成長を示しています。この背景には、アイルランドの低法人税率、若年人口・高教育水準、英語圏という立地優位性があります。
第一次所得収支の歴史的転換
2024年に米国の第一次所得収支は1960年の統計開始以降初めて赤字に転落しました。これは米国経済史上の重要な転換点を示しています。投資形態別の構造を見ると、受取構成では直接投資44.3%、証券投資36.1%、その他投資19.0%となっている一方、支払構成では証券投資50.4%、直接投資24.0%、その他投資23.6%となっており、非対称性が明確です。
この変化の背景には、2017年のTCJA(減税・雇用法)による海外未配当利益2.6兆ドル超の米国内還流促進、2018年以降の再投資収益パターンの変化、債券利子支払の増大(支払側の70%近くを占める)などがあります。米国債利払費が全体の46.7%(2024年)を占めており、基軸通貨国としての資金調達コストの増大が表れています。
対外純負債の拡大と収益率格差の縮小
米国の対外純投資ポジション(NIIP)は2024年に対GDP比マイナス89.9%まで拡大し、対外純負債が深刻化しています。2022年のマイナス61.2%から2023年のマイナス70.7%への拡大の4分の3はバリュエーション効果によるもので、証券投資が対外純負債の66%を占めています。
同時に、米国が享受してきた「法外な特権」と呼ばれる収益率格差も縮小傾向にあります。直接投資収益率差は2018年のピーク4.9%ポイントから2024年には3.7%ポイントに縮小し、証券投資では2008年以降1%ポイント程度で安定、その他投資では2000年以降1%ポイント程度で推移しています。
直接投資構造とファントムFDI問題
対外直接投資の地域構造では、2000年の英国・カナダ・オランダ・バミューダ・日本から、2023年には英国・オランダ・ルクセンブルク・アイルランド・カナダへと変化し、日本のシェアは4.3%(5位)から0.9%に大幅低下しました。
一方、対米直接投資では日本が14.5%で首位を占め、カナダ(12.2%)、ドイツ、英国、フランスが続いています。日本の首位は新規投資増ではなく、現地法人利益再投資の累積によるもので、製造業への投資が全体の41.2%を占める実体ある投資となっています。
重要な問題として、ファントムFDI(実体を伴わない投資)の拡大があり、非金融持株会社が48.8%を占めています。2019年時点で世界のFDIの40%がファントムFDIとなっており、真の経済活動を反映しない投資の増大が課題となっています。
記事は、米国のサービス貿易競争力は堅調である一方、投資所得構造に歴史的な変化が生じており、基軸通貨国としての「法外な特権」に変化の兆しが見られると結論づけています。