FRA NEWS No.83 2025年7月刊行~特集:食害~水産物を守る工夫~
水産研究・教育機構が発行する広報誌「FRA NEWS」第83号で、水産業に深刻な被害をもたらす「食害」の実態と、それに対する最新の防除技術や研究成果について包括的に解説したものです。
主要なポイント
水産業における食害被害の現状
- 東京都の伊豆諸島海域におけるキンメダイ等の漁業被害額は年間1億~6千万円に達している
- サメやシャチによるまぐろはえ縄漁業の食害は世界中で深刻な問題となり、被害総額は2004年データで年間100億円に及ぶ
- カワウによる内水面での水産被害額は2023年時点で85億円と推定されている
- 瀬戸内海のアサリ漁獲量は1983年のピーク時1万4424トンから2023年には過去最低の514トンまで激減
アサリ食害対策の実証研究
- 瀬戸内海で最も影響を与える食害魚はクロダイで、2023年の漁獲量は全国で5106トン、うち瀬戸内海が4215トンを占める
- 山口湾での被覆網実験では、網内のアサリ生息密度が網外と比較して著しく高いことが確認された
- 被覆網の設置は干潟のアサリの消滅を食い止め、漁業生産を継続するために効果があることが実証された
- 広島県廿日市市では区画漁業と被覆網による漁場管理が実施され、アサリ資源の保護に成功している
サメによる漁業被害と対策技術
- サメはロレンチーニ瓶と呼ばれる器官で微弱な電気を感知し、獲物の位置を特定する能力を持つ
- 電場を発生させる金属や電子回路、磁石を釣り針のそばに取り付けてサメを遠ざける技術が開発されている
- サメよけ装置はダイバーやサーファー向けにも商品化されているが、サメの種類により反応が異なるため課題が残る
- サメの嗅覚の鋭敏さを利用し、サメが腐敗した時にできる化学物質を忌避剤として使用する試みも行われている
渓流魚の食害防止策
- 放流後わずか1日目からアオサギが集まり、渓流魚を捕食する実態が赤外線カメラで確認された
- 池を利用した実験では約82%の放流魚が大型魚に食べられており、深刻な被害が判明
- 木の枝を束ねた簡易な隠れ家を設置することで、食害を約20%まで減少させることに成功
- 栃木県日光市では小学校と連携し、イワナの隠れ家づくりを授業として実施し、防災教育も兼ねた取り組みを展開
カワウ対策の新技術
- 銃器が使用できない場所でも安全に実施できる「釣り針による捕獲」技術を開発
- 捕獲したカワウにGPSロガーを装着し、リアルタイムで行動を把握する「フライトレコーダー」システムを構築
- カワウは定期的に日干しを行う習性があり、この際にGPSロガーの充電も行われる仕組み
- 得られた行動記録は広域協議会などで共有され、効率的な飛来防除対策の立案に活用されている
記事は、水産業が直面する食害問題の深刻さを具体的な被害額とともに示し、各研究機関が開発した実用的な対策技術を紹介することで、生物との共存を図りながら持続可能な水産業の実現を目指す取り組みの重要性を訴えたものです。