ジェトロが発表した「アフリカにおけるライフスタイル・消費者動向(エチオピア)」は、東アフリカ最大の市場であるエチオピアの消費者行動とライフスタイルの変化を詳細に分析した市場調査レポートです。
エチオピア市場の概況では、人口約1億2,800万人(アフリカ第2位)を擁し、名目GDP約1,380億ドル(2023年)と東アフリカ最大の経済規模を有しています。一人当たりGDPは約1,080ドルと低水準ですが、年率6-8%の経済成長により中間所得層が拡大しており、2030年には約2,300万人(全人口の18.4%)に達すると予測されています。
都市化の進展では、都市人口比率が2010年の17.8%から2023年には22.7%に上昇し、首都アディスアベバの人口は約520万人(全人口の4.1%)に達しています。主要都市では可処分所得の増加により消費市場が急拡大しており、特にアディスアベバでは世帯月収が平均約580ドル(全国平均の3.8倍)と高水準です。
消費支出構造では、都市部中間所得層の支出内訳は食費が52.3%と最大で、住居費(18.7%)、交通・通信費(12.4%)、衣料品・履物(8.9%)、教育・娯楽(7.7%)が続いています。農村部では食費の比率が73.2%と更に高く、現金収入の多くが基本的生活必需品に充てられています。
食生活の変化では、伝統的な穀物中心の食事から、肉類・乳製品・加工食品への需要が拡大しています。都市部では外食産業が急成長し、レストラン・カフェ市場は約12億ドル(前年比18.3%増)に達しています。特にファストフード、コーヒーチェーン、デリバリーサービスの需要が高まっており、国際ブランドの参入も相次いでいます。
デジタル化の進展では、携帯電話普及率が67.8%(うちスマートフォン28.4%)、インターネット利用率が25.3%に達し、デジタル決済の利用も急拡大しています。モバイルマネー「CBE Birr」の利用者数は約840万人(前年比45.2%増)で、都市部での普及率は48.3%に達しています。
小売業の変化では、従来の伝統市場に加えて近代的小売店(スーパーマーケット、コンビニエンスストア等)が拡大しており、現代的小売業の市場シェアは都市部で23.7%(5年前の8.4%から大幅増)に上昇しています。主要小売チェーンでは輸入品・加工食品の品揃えが充実し、消費者の利便性向上に寄与しています。
住宅・インフラでは、都市部で住宅不足が深刻化しており、家賃の急激な上昇(年率15-20%)が消費行動に大きな影響を与えています。一方、電力供給率の改善(都市部94.2%、農村部48.7%)により家電製品の普及が進み、冷蔵庫(都市部普及率41.3%)、洗濯機(同18.7%)、テレビ(同76.8%)の需要が拡大しています。
教育・スキル向上への投資では、中間所得層の教育費支出が世帯収入の12.3%を占め、特に英語・IT教育への関心が高くなっています。大学進学率は18.4%(10年前の7.2%から大幅上昇)で、高等教育を受けた若年層が新たな消費牽引層となっています。
女性の社会進出では、都市部女性の労働参加率が42.7%(10年前の28.3%から上昇)に達し、女性の購買決定権が拡大しています。特に美容・化粧品市場は約4.8億ドル(前年比22.1%増)と急成長し、国際ブランドの需要が高まっています。
交通・移動手段では、自動車保有率は都市部で100世帯当たり8.2台と低水準ですが、モーターサイクル・タクシー(バジャジ)、配車アプリサービスの普及により移動の利便性が向上しています。公共交通機関では首都にLRT(ライトレールトランジット)が開通し、消費行動圏の拡大に寄与しています。
ヘルスケア・ウェルネス市場では、都市部中間所得層を中心に健康意識が向上し、サプリメント、健康食品、フィットネス関連商品・サービスの需要が拡大しています。民間医療保険の加入率も都市部で17.3%(5年前の4.8%から上昇)に増加しています。
エンターテイメント・娯楽では、映画館、スポーツクラブ、カフェ・レストランでの余暇消費が拡大し、特に若年層(15-35歳、人口の約58%)が牽引しています。音楽・映像のストリーミングサービス利用者も約280万人に達し、デジタルコンテンツ消費が急増しています。
今後の展望では、2030年までに中間所得層が現在の2.1倍に拡大し、消費市場規模は約420億ドル(現在の約1.8倍)に成長すると予測されています。特に食品・飲料、住宅関連、教育・ヘルスケア、デジタルサービス分野で大きな成長機会が期待されています。
記事は、エチオピアが急速な経済成長と都市化により消費市場として大きなポテンシャルを有しているが、インフラ整備、制度的課題、所得格差等の解決が持続的な市場発展の前提であると結論づけています。