ジェトロが発表した「アニメ関連サービス・商品に関する米国市場レポート」は、世界最大のエンターテインメント市場である米国におけるアニメ産業の現状と成長機会を詳細に分析した調査報告書です。
米国アニメ市場の概況では、2023年の市場規模が約68億ドル（前年比12.4%増）に達し、過去5年間で約2.1倍に拡大しています。特にストリーミングサービスの普及により視聴者層が大幅に拡大し、18-34歳の約44.3%、35-54歳の約31.7%がアニメを定期的に視聴しています。コロナ禍における巣ごもり需要も市場拡大を加速させました。
配信プラットフォーム別では、Netflix（視聴時間シェア28.4%）、Crunchyroll（25.7%）、Funimation（18.9%）、Hulu（12.3%）が主要プラットフォームとなっています。Netflixは「ワンピース」実写版、「攻殻機動隊」等のオリジナルアニメコンテンツに年間約8億ドルを投資し、グローバル展開を強化しています。
視聴動向では、日本アニメが圧倒的な人気を誇り、上位50作品中42作品（84%）を日本作品が占めています。特に「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「進撃の巨人」等のバトル・アクション系と「君の名は。」「天気の子」等の新海誠監督作品が高い人気を博しています。ジブリ作品も根強いファン層を持ち、HBO Maxでのスタジオジブリ作品配信開始により視聴者数が前年比78.3%増加しました。
商品化市場では、アニメ関連グッズの小売市場が約34億ドル（前年比15.8%増）に達しています。カテゴリー別ではフィギュア・コレクタブルが約12.8億ドル（37.6%）と最大で、アパレル・アクセサリー（約8.9億円、26.2%）、ゲーム・玩具（約7.2億円、21.2%）、出版・漫画（約5.1億円、15.0%）が続いています。
小売チャネルでは、専門店（GameStop、Hot Topic等）が約38.2%、オンライン（Amazon、eBay等）が約31.7%、百貨店・量販店（Target、Walmart等）が約21.4%、コンベンション・イベント販売が約8.7%のシェアを占めています。特にオンライン販売は年率23.1%で成長し、パンデミック期間中にシェアを大幅に拡大しました。
イベント・コンベンション市場では、Anime Expo（年間来場者約35万人）、New York Comic Con（同約20万人）、Otakon（同約18万人）等の大型イベントが経済効果を創出しており、会場周辺地域への経済波及効果は年間約4.2億ドルと推計されています。また、アニメ関連の展示・体験施設も増加傾向にあります。
ゲーミング・eスポーツとの連携では、アニメを原作としたモバイルゲームが人気を集め、「ドラゴンボール」「NARUTO」「ONE PIECE」等のIPを活用したゲームの累計売上高は約18億ドルに達しています。また、アニメキャラクターを活用したeスポーツ大会も開催され、新たな収益源となっています。
ストリーミング配信事業では、字幕・吹き替えの質向上により視聴者層が拡大し、特に同日配信（simulcast）により日本での放送直後に米国でも視聴可能となることで、ファンの満足度が向上しています。Crunchyrollの有料会員数は約520万人（前年比28.4%増）に達しています。
製作委員会・共同制作では、米国企業が日本のアニメ制作に出資・参画する事例が増加しており、Netflix、Sony Pictures、Warner Bros等が年間約12億ドルを投資しています。これにより高品質な作品が継続的に制作され、グローバル市場での競争力を維持しています。
マーチャンダイジングでは、アニメIP（知的財産）のライセンス収入が約8.7億ドル（前年比19.2%増）に達し、日本の制作会社・版権元にとって重要な収益源となっています。特にキャラクターグッズ、アパレル、食品・飲料とのコラボレーション商品が好調です。
アニメツーリズムでは、作品の聖地巡礼ブームにより日本への旅行需要が拡大し、アニメファンの日本訪問者数は年間約125万人（全米国人訪日観光客の8.3%）に達しています。「君の名は。」の舞台となった飛騨高山、「鬼滅の刃」関連地等が人気観光地となっています。
教育・アカデミック分野では、大学でのアニメ・マンガ研究コースの開設、アニメーション技術・日本語学習への関心増大等により、文化的影響力も拡大しています。約280の大学・短大でアニメ関連講座が開講され、年間約3.8万人が受講しています。
今後の成長予測では、2030年までに市場規模が約120億ドル（年平均成長率11.8%）に達すると予想され、特にVR/AR技術を活用した新たな視聴体験、AIによるパーソナライゼーション、メタバース空間でのアニメ体験等が新たな成長ドライバーとなることが期待されています。
記事は、米国アニメ市場が日本コンテンツを中核とした急成長を続けており、デジタル技術の進化と多様な事業モデルの発展により、今後も拡大基調が継続すると結論づけています。