リクルートワークス研究所の豊田義博特任研究員が、日本版"ブルシット・ジョブ"研究プロジェクトの一環として実施したグループインタビューから、メンバークラスの視点で見た「無意味な仕事」の発生メカニズムを分析したものです。
主要なポイント
1. 研究の背景と目的
- デビッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ』にインスパイアされて立ち上げた研究プロジェクト
- ブルシット・ジョブ≒"無意味な仕事"を以下のように仮定義:
- 帰属集団の一員であり続けるために、コミットせざるを得ない
- 社会的意味があることを表向きには否定することはないが、それを形にしても、社会的意味が極めて乏しいことが予見される仕事
2. グループインタビューの設計
- 対象: 民間企業で就業する人
- 従業員規模: 「大企業(5000名以上)」と「中小企業(100-299名)」の2カテゴリー
- 組織内階層: 「部長クラス」「課長クラス」「メンバークラス」の3カテゴリー
- 実施方法: 6グループ(2×3)でのインタビュー
- 特徴: 「ブルシット・ジョブ」という言葉は一切使用せず、「モヤモヤする仕事」「手応えがない仕事」として聞き取り
3. メンバークラスから見えた7つの論点
【上部構造:ブルシット・ジョブを直接生み出す要因】
論点① 画一化されたルール
- 本部が定めたマニュアルや定期的なチェックの多くが「意味がない」
- 例:小売チェーンの予定表通りの業務遂行(現実には機能せず)
- 時短勤務、フレックスタイム制など就業ルールの硬直的運用
論点② 証拠作り・履歴作り
- 誰も見ない資料の作成
- 形ばかりのコンプライアンスチェック
- 複雑化したチェックリストが本来業務を圧迫
- 例:健康促進の歩数競争で、スマホを振って歩数を「増やす」行為
論点③ システム化の逆効果
- DXの名のもとでのデジタル化が新たな無駄を生む
- システムの不備・不具合による業務負荷
- システムやアプリの使い勝手の悪さ
- 日本企業の「全体最適」「プロセスエクセレンス」軽視が背景に
論点④ 組織の壁
- 分業体制が良好に機能していない(例:デザイン部門が上流工程に関われない)
- 部署間の力関係による業務のひずみ
- 全体最適より部分最適を優先する組織文化
【下部構造:ブルシット・ジョブを生み出す誘因】
論点⑤ リソースの欠如
- 人手不足で仕事が回らない
- 能力や意欲の低い人の存在(特に中小企業)
- 時間不足(業務量増加と残業規制のジレンマ)
- 無茶苦茶なスケジュール設定
論点⑥ 職場のコミュニケーション劣化
- 上司とのコミュニケーション不全(意図不明な指示、フィードバック欠如)
- 「馬が合わない」「会話がほとんどない」など、つながり自体の欠如
- リモートワーク・オンラインツールによるコミュニケーションエラー
論点⑦ 現場力のアップデート不足
- 市場変化に対応できていない現場の知識・スキル
- リスキリングのハードルの高さ
- リソース欠如(論点⑤)が重しとなって前進できない
4. 分析から見えてきた構造
- 論点①②③④という上部構造と論点⑤⑥⑦という下部構造が相互に影響
- 特に論点④(組織の壁)が最上位に位置づけられる
- 組織のサイズが大きくなるほど、組織は複雑化し、必然的にブルシット・ジョブが増える
- 中小企業でも発生しているが、大企業に比して少ない
5. 今後の展開
- 本稿はメンバークラスの視点
- 次回は課長クラスの視点から分析予定
- 階層ごとの視点の違いから、実態や背景を立体的に捉える
本研究は、日本企業における「無意味な仕事」の発生メカニズムを、現場で働く人々の生の声から体系的に明らかにした貴重な分析です。