所得データとしての確定申告データ:行政データを用いた経済分析

財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」第160号に掲載された論文です。宇南山卓教授らの研究チームが、確定申告データの所得データとしての性質と活用可能性について包括的に分析した研究成果です。

主要なポイント

1. 研究の概要と目的

  • 執筆者:宇南山卓(京都大学)、佐野晋平(神戸大学)、勇上和史(神戸大学)、稲葉和洋(税務大学校/財務総合政策研究所)
  • 研究課題:確定申告データの所得統計としての有用性評価
  • 問題意識:既存の所得統計の限界を補完する新たなデータソースの確立
  • 分析手法:他の所得統計との比較検証

2. 所得統計と確定申告の関係

  • 既存の所得統計の限界
    • 家計調査:サンプルサイズと回答バイアス
    • 賃金構造基本統計調査:雇用所得のみ
    • 国民生活基礎調査:高額所得者の捕捉困難
  • 確定申告データの特徴
    • 税務申告に基づく正確性
    • 所得源泉の包括性
    • 高額所得者の完全捕捉

3. 確定申告データの人的カバレッジ

  • 申告義務者の範囲
    • 給与所得者:年収2,000万円超
    • 事業所得者:原則全員
    • 複数所得源保有者
  • 申告者数の推移
    • 約2,200万人(人口の約17%)
    • 増加傾向にある申告者数
  • 非申告者の特徴
    • 年収2,000万円以下の給与所得者
    • 年金受給者の一部
    • 所得のない者

4. 確定申告データの所得のカバレッジ

  • 捕捉される所得
    • 事業所得の全体像
    • 不動産所得
    • 配当・利子所得(総合課税分)
    • 譲渡所得
  • 部分的捕捉
    • 給与所得(高額者のみ)
    • 年金所得(一部)
  • 捕捉されない所得
    • 源泉分離課税の利子
    • 少額配当

5. 高額所得者のデータとしての確定申告データ

  • 完全性
    • 年収2,000万円超は漏れなく捕捉
    • 資産性所得の包括的把握
    • 所得構成の詳細分析可能
  • 国際比較可能性
    • トップ所得シェアの計算
    • パレート係数の推定
    • 格差指標の正確な算出
  • 時系列分析:長期的な所得分布の変化追跡

6. 他の統計との比較分析

  • 国税庁統計との整合性
    • 集計値レベルでの一致
    • 個票分析の優位性
  • 家計調査との乖離
    • 高額所得層での大きな差
    • 事業所得の捕捉率の違い
  • SNAとの関係:マクロ統計への接続可能性

7. データ利用上の注意点と限界

  • 代表性の問題
    • 全人口の代表サンプルではない
    • 特定の所得階層に偏り
  • 定義の相違
    • 税法上の所得概念
    • 経済学的所得との乖離
  • 時点の問題:年度ベースのフロー情報のみ

8. 研究への活用可能性と今後の展望

  • 格差研究への貢献
    • より正確な所得分布の把握
    • 富裕層研究の深化
  • 政策評価
    • 税制改正の効果測定
    • 所得再分配政策の検証
  • 将来的拡張
    • 他のデータとのリンケージ
    • パネル化による動態分析
    • 国際共同研究への発展

本研究は、確定申告データが日本の所得分布研究において極めて重要なデータソースであることを実証的に示し、今後の所得・格差研究の新たな地平を開く重要な成果です。

※ この要約はAIによって自動生成されました。正確性については元記事をご参照ください。