我が国における税務データに基づく分析の意義:行政データを用いた経済分析

財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」第160号に掲載された論文です。國枝繁樹中央大学教授が、日本における税務データを用いた経済分析の意義と可能性について、理論的・実証的観点から包括的に論じています。

主要なポイント

1. 研究の背景と目的

  • 執筆者:國枝繁樹(中央大学法学部教授)
  • 問題意識:日本の税務データ活用の遅れと その克服の必要性
  • 研究目的:税務データ分析の学術的・政策的意義の明確化
  • アプローチ:理論研究と実証研究の架橋

2. 行政データの経済学での利用の背景

  • 国際的潮流
    • ビッグデータ時代の到来
    • 計算能力の飛躍的向上
    • 因果推論手法の発展
  • 経済学の変化
    • 実証研究の比重増大
    • ミクロデータ分析の主流化
    • 政策評価への関心の高まり
  • データ革命:サーベイデータから行政データへのシフト

3. 現代租税理論の展開と税務データを用いた実証研究

  • 最適課税理論の発展
    • Mirrlees以降の理論的深化
    • 行動経済学的要素の導入
    • 動学的最適課税の展開
  • 実証研究の必要性
    • 理論パラメータの推定
    • 政策効果の検証
    • 理論予測の妥当性検証
  • 理論と実証の相互作用:新たな理論的洞察の獲得

4. 各国における税務データの学術利用

  • 先進事例
    • デンマーク:全人口カバーの統合データ
    • ノルウェー:長期パネルデータの構築
    • 米国:IRS-SOI部門の充実したデータ提供
  • 制度的工夫
    • データラボの設置
    • リモートアクセスシステム
    • 合成データの活用
  • 研究成果:ノーベル賞級の研究を含む多数の成果

5. 日本でのこれまでの研究とその限界:高額所得者の所得分布の推計例

  • 既存研究の限界
    • 集計データへの依存
    • サンプルの代表性問題
    • 高額所得者データの欠如
  • 具体例:所得格差研究
    • 家計調査の限界
    • 税務統計の部分的利用
    • 国際比較の困難性
  • データアクセスの壁:守秘義務と研究利用の対立

6. 税務大学校との共同研究の開始と提供される申告所得税データ

  • 画期的な進展
    • 2017年からの共同研究開始
    • 個票データへのアクセス実現
    • 厳格な情報管理下での分析
  • データの特徴
    • 申告所得税の全数データ
    • 詳細な所得項目情報
    • 控除・税額の完全把握
  • 分析環境:オンサイトでのセキュアな分析システム

7. 申告所得税データ利用の成果:最近の高額所得者の所得分布分析

  • 新たな発見
    • 所得集中度の正確な測定
    • 所得源泉の構成変化
    • 国際比較可能なデータの作成
  • 方法論的貢献
    • トップコーディング問題の解決
    • パレート分布の当てはめ
    • 時系列比較の精緻化
  • 政策的含意:累進税制設計への具体的示唆

8. 今後の申告所得税分析の展望

  • 研究の拡張
    • 他の税目データとの統合
    • パネルデータ化の推進
    • 国際共同研究の展開
  • 新たな研究テーマ
    • 行動反応の精密な推定
    • 租税回避行動の分析
    • 最適税制の実証的設計
  • 社会への貢献:エビデンスに基づく税制改革

本論文は、日本における税務データを用いた経済分析の意義を理論的・実証的に明らかにし、この分野の研究が持つ大きな可能性を説得的に示した重要な研究です。

※ この要約はAIによって自動生成されました。正確性については元記事をご参照ください。