令和8年度年次経済財政報告―成長型経済への本格的移行に向けた課題―第1章 景気の現状と課題 — 第1節 原油価格上昇の影響と物価・賃金の動向
概要
2026年2月末の中東情勢緊迫化を受け、原油や関連商品の国際価格が上昇し、輸入物価・企業物価を押し上げた。政府は備蓄放出と代替調達を進め、7月には必要原油量をおおむね全量確保する見込みとなった。燃料油対策でガソリン価格は緊迫化前の水準をおおむね維持したが、石油・化学製品を通じた消費者物価への上昇圧力は続く見込みである。賃上げは堅調に進む一方、交易条件悪化が企業収益や家計の実質所得を下押しする圧力となっている。
要点
- 日本経済は民需を中心に緩やかな回復を続ける一方、中東情勢に伴う原油高が下押し要因となった。
- ドバイ原油は2026年3月に一時170ドル程度まで上昇し、緊迫化前から約2倍となった。
- 政府は備蓄放出と調達先の拡大を進め、2026年7月には必要原油量をおおむね全量確保する見込みとなった。
- 賃上げとサービス価格の上昇が続き、賃金を伴う物価上昇に近づいている。
概要
2026年2月末、米国・イスラエルとイランの攻撃の応酬を契機に、原油、ナフサ、LNG、石炭などの価格が上昇した。円安方向の為替も加わり、石油・石炭・天然ガスや化学製品を中心に輸入物価が押し上げられた。
2026年5月の消費者物価上昇率は、総合1.5%、コア1.4%、コアコア1.8%だった。米・食料品価格の上昇鈍化や電気・ガス料金の負担軽減策が伸びを抑えた。
主要数値
- ドバイ原油の一時最高値(2026年3月)
- 170ドル程度/バレル
- ナフサ価格の上昇(2026年2月末以前比、一時)
- 約1.9倍
- LNG価格の上昇(2026年2月末以前比、一時)
- 約2.1倍
- 必要原油量の調達見込み(2026年7月)
- おおむね全量(約10割)
- 石油備蓄量(2026年6月28日時点)
- 200日分
- 2026年度春季労使交渉の賃上げ率(定期昇給込み)
- 前年比5%程度
影響
燃料油の緊急的激変緩和措置により、ガソリン小売価格は緊迫化前の水準をおおむね維持した。一方、ナフサ由来の化学製品は塗料やポリ袋などに広く使われ、生活必需品を含む小売価格への上昇圧力となる。
原油・石油化学製品の高騰は、財務基盤が相対的に弱い中小企業ほど影響を受けやすい。中小企業・小規模事業者は従業員の約7割を雇用し、その賃上げは全体の賃金上昇率と国民の購買力向上に重要である。
詳細
政府は石油備蓄を段階的に放出し、中東・米国に加えて中南米、アジア太平洋、中央アジア、アフリカへ調達先を拡大した。調達は4月の必要量約25%、5月約6割、6月約8割、7月約10割へ進んだ。
2026年度の賃上げは、定期昇給込みで前年比5%程度、ベースアップで3%台半ば、短時間労働者等の時給で前年比6%以上となった。現金給与総額は前年比3%程度で伸び、実質賃金もプラスに転じた。
デフレ状況にはないが、デフレ脱却は物価の基調、GDPギャップ、単位労働費用、企業の価格転嫁、家計・企業の予想物価上昇率を総合して慎重に判断する必要がある。