台湾・政治大学日本研究プログラム副教授の石原忠浩氏による「大罷免をめぐる与野党攻防、頼清徳政権1周年、馬英九元総統の訪中」について、2025年4月上旬から7月上旬にかけての台湾政治情勢を詳細に分析したものです。
2025年の台湾政治は、民進党の柯建銘委員が1月4日に41人の国民党系立法委員の罷免活動を提起したことに始まり、全国規模の「大罷免」運動へと発展しました。6月20日、中央選挙委員会は国民党籍24名の立法委員のリコール投票を7月26日に実施すると公告し、その後南投県選出の2名についても8月23日の投票が決定され、合計26選挙区でリコール投票が行われることになりました。一方、国民党が推進していた民進党委員に対する罷免案は規定の署名数に達せず全滅となり、政党間の明確な力の差が示されています。
頼清徳総統は5月20日の就任1周年談話で「逆風を乗り越え、着実に前進」と題する演説を行い、野党に対話と党派を超えた団結を呼びかけました。しかし、世論調査では施政満足度が複数機関で異なる結果を示しており、TVBSでは満足度32%、不満55%と厳しい評価となった一方、民進党調査では満足57.3%と正反対の結果が出るなど、台湾社会の分裂が数字にも表れています。台湾民意基金会の調査では「大罷免」に対して「賛成しない」が57.7%と過半数を占める一方、「投票に行く」意向は62.2%と高く、政治的関心の高さを示しています。
両岸関係では、馬英九元総統が6月14日から27日まで4度目の訪中を行い、第17回海峡フォーラムに参加しました。甘粛省敦煌では「私の主張は両岸は平和民主統一すること」と発言し、会場から大きな拍手を受けましたが、中国政府系メディアはこの発言を報じておらず、微妙な反応を見せています。米台関係では、トランプ政権の「相互関税」導入により台湾に32%の高関税が課されることが発表され、台湾社会に衝撃が走りました。ブルッキングス研究所の世論調査では、台湾住民の対米信頼度が大幅に低下し、「米国を信頼できない」が37.9%(前年比+13.9%)に急増しています。
記事は、「大罷免」が単なる政治的報復ではなく台湾の民主主義制度の試金石となっており、与野党の対立激化、米国への信頼低下、中国との関係模索など複合的な課題に直面する台湾政治の現状を浮き彫りにしていると結論づけています。