調査の背景と目的 経済産業省が高齢化社会の進展と医療技術の高度化に対応し、日本の医療機器産業の国際競争力強化と海外市場開拓を目的として実施した戦略調査の報告書です。世界医療機器市場での日本企業のプレゼンス向上、規制調和の推進、イノベーション創出環境の整備等を通じて、医療機器産業をわが国の成長産業として確立するための政策方針を検討しています。
産業の現状と市場動向 世界の医療機器市場規模は前年比8.7%増の5,150億ドルに達し、日本企業の世界市場シェアは6.8%(350億ドル)となっています。国内市場では診断機器・システムが28.3%、治療機器が24.7%、体外診断薬が18.9%を占める構造となっています。特にAI搭載診断機器分野では日本企業の技術優位性が高く、画像診断AIで世界シェア23.4%、内視鏡AI診断で38.7%を獲得しています。一方、海外市場への参入率は35.2%に留まり、米国企業の78.4%、ドイツ企業の65.1%を大きく下回っています。
技術革新と規制対応 次世代医療機器の開発投資は年間総額4,200億円に達し、再生医療機器が32.1%、デジタル治療機器が28.6%、ロボット手術システムが22.7%を占めています。薬事承認の迅速化により、革新的医療機器の承認期間は平均18.3ヶ月から12.7ヶ月に短縮されましたが、米国FDA(10.2ヶ月)、欧州EMA(11.8ヶ月)との競争では依然として後れを取っています。また、国際規制調和への取り組みにより、日本発の医療機器標準が年間15件策定され、海外展開の基盤強化が進んでいます。
戦略提言と支援制度 医療機器産業の国際競争力強化に向けて、年間1,500億円規模の「医療機器グローバル展開支援プログラム」の創設を提案しています。革新的技術開発支援に600億円、海外市場参入支援に400億円、規制科学研究・人材育成に300億円、ベンチャー企業育成に200億円を配分する計画です。また、2030年までに日本企業の世界市場シェアを現在の6.8%から12%以上に引き上げ、海外展開企業比率を35.2%から60%以上に向上させることを目標としています。さらに、アジア太平洋地域での医療機器規制調和を主導し、日本企業の域内市場アクセス改善を図るとしています。