論文の目的と背景
アジア経済研究所の早川和伸・椋寛による2025年9月22日発行のポリシー・ブリーフが、トランプ関税の理論的根拠を米国の覇権維持の観点から分析。2025年に導入されたトランプ関税が世界経済を大混乱に陥れている中、米国の保護主義を構造的要因として捉え、覇権国の地位維持に必要な経済政策を検討している。
最適生産地分布の理論的枠組み
経済効率性と経済安全保障の対立: 研究では各製品の最適生産地を経済効率性と経済安全保障の2つの観点から分析。軍事製品に直接・間接的に用いられる重要鉱物や半導体等の先端製品では、経済効率性が劣っても自国や軍事同盟国での生産能力確保が重要と指摘。
覇権挑戦国の登場: 覇権挑戦国(国D)が現れた場合、元祖覇権国(国B、米国)は経済効率性に基づく分布から経済安全保障に基づく分布への転換が必要になる。輸出規制により重要物資が入手困難になるリスクに対応するため。
政策的手段と選択肢
関税政策の戦略的活用: 覇権挑戦国に対して禁止的高関税を設定する一方、同盟国(国C)には無税措置を適用。これにより覇権挑戦国の販売機会を縮小させ、同盟国の生産拡大を支援する仕組み。関税を使ったアメとムチにより、同盟国にも覇権挑戦国との貿易制約を約束させることが可能。
国内生産補助金との比較: 一般的に輸入関税は国内生産補助金より経済に有害だが、第三国の貿易にも制約を課すには関税政策の方が有効な手段となる。
主要な政策的含意
製品の段階的分類: 経済効率性と経済安全保障の分布差が小さい財についてはWTOルールベースの貿易体制維持が適切。軍事的重要度に応じた製品分類により、必要な対応の見通しを立てることが重要。
同盟国への適切な対応: 現在の米国の全方位的関税政策は、日本等の同盟国にまで追加関税を課すことで最適な生産地分布を歪めている。同盟国に対しては貿易緩和措置を取るべきであり、軍事的重要度別に同盟国・非同盟国への異なる制限度を持つ貿易政策導入が必要。