ジェトロが分析した米国の関税措置がASEAN諸国に与える影響について、輸出・投資統計から見た対米関係の変化を詳細に検証した第1回レポートです。
米中貿易摩擦以降、米国は中国製品に対する追加関税を段階的に引き上げており、2025年現在も多くの品目で25%以上の高関税が維持されています。この状況下で、ASEAN諸国は「漁夫の利」を得る形で対米輸出を拡大させています。統計分析によると、2019年から2024年の5年間で、ASEAN全体の対米輸出は約40%増加し、特にベトナム(65%増)、タイ(45%増)、マレーシア(38%増)が大きな伸びを示しています。
品目別では、電子機器・部品、繊維・アパレル、家具、機械類などで顕著な輸出増加が見られます。これらは従来中国が強みを持っていた分野であり、サプライチェーンの再編が進んでいることを示しています。ただし、この輸出増加の一部は、中国からの迂回輸出や最終工程のみをASEANで行う「軽い現地化」によるものとの指摘もあり、米国当局は原産地規則の厳格化を進めています。
投資面では、中国からASEANへの製造業投資が急増しています。2020年以降、中国企業によるASEAN向け直接投資は年平均30%以上の伸びを示しており、特にベトナム、タイ、インドネシアへの投資が活発です。また、欧米や日本企業も「チャイナ・プラス・ワン」戦略の一環として、ASEAN での生産能力拡大を進めています。
一方で、急速な投資流入は、インフラ不足、熟練労働者の不足、環境問題などの課題も顕在化させています。また、米国が今後ASEAN諸国に対しても貿易制限を強化する可能性もあり、各国は国内付加価値の向上と産業高度化を急いでいます。
記事は、米国の対中関税政策がASEANに短期的な利益をもたらしている一方で、持続可能な成長のためには構造改革と産業高度化が不可欠であることを示しています。