ジェトロが報告したASEAN諸国におけるAI(人工知能)の法整備について、法的拘束力のある規制枠組みの必要性を分析した第1回レポートです。
AI技術の急速な発展と社会実装が進む中、ASEAN各国は適切な法的枠組みの構築に取り組んでいます。しかし、2025年7月時点で、包括的なAI規制法を制定している国はシンガポールのみであり、他の国々は業界ガイドラインや倫理指針のレベルにとどまっています。この状況は、AIの便益を最大化しつつリスクを最小化するという観点から、大きな課題となっています。
シンガポールは2024年に「AI統治法」を施行し、高リスクAIシステムの事前評価、透明性要件、説明責任の確保などを義務付けています。特に、金融、医療、司法、重要インフラなどの分野でのAI利用には厳格な規制が適用されます。また、AI開発者・運用者向けの認証制度も導入し、信頼できるAIエコシステムの構築を目指しています。
タイ、マレーシア、インドネシアは、国家AI戦略を策定し、倫理ガイドラインを公表していますが、法的拘束力のある規制はまだ整備されていません。これらの国では、イノベーション促進と規制のバランスをどう取るかが議論の焦点となっています。特に、個人データ保護、アルゴリズムの透明性、AIによる差別の防止、責任の所在の明確化などが主要な検討事項です。
ASEAN地域レベルでは、「ASEAN AI統治・倫理ガイド」の策定作業が進められており、2026年の採択を目指しています。このガイドは、EU のAI規制法を参考にしつつ、ASEAN の発展段階や文化的背景を考慮した内容となる予定です。ただし、法的拘束力を持たせるかどうかは各国の判断に委ねられる見込みです。
企業の視点では、各国で異なるAI規制が導入されることで、コンプライアンスコストの増大や事業展開の複雑化が懸念されています。そのため、ASEAN全体での調和の取れた規制枠組みの構築が強く求められています。
記事は、AI技術の恩恵を享受しつつ、プライバシー侵害や差別などのリスクを防ぐためには、適切な法的枠組みの早期構築が不可欠であることを強調しています。