日本政策投資銀行設備投資研究所の青山竜文氏による「人材の還流とケーパビリティ」と題したコラムで、ライフサイエンス・エコシステムにおける社会実装プロセスと人材開発戦略について論じたものです。
ライフサイエンス分野における研究成果の社会実装には、従来のリニアモデルを超えた複層的なアプローチが必要であることを指摘しています。社会実装プロセスにおいて重要な要素として、技術的な実現可能性の検証、エビデンスの蓄積、適切な規制対応、市場ニーズとの適合性確認の4つの観点から体系的な検討が必要であるとしています。特に日本においては、基礎研究から応用研究、実用化に至る各段階において、異なる専門性を持つ人材の連携と知識の継承が課題となっています。
先端技術分野の研究者へのインタビュー調査と海外関係者との議論を通じて、アカデミア内の社会実装支援体制の構築が急務であることを明らかにしています。現状では、大学や研究機関における産学連携部門の機能強化、技術移転専門人材の育成、知的財産戦略の高度化が不十分で、優れた研究成果が効果的に社会実装に結び付いていないケースが多数存在します。
人材のキャリアパスと職種の多様性について、研究開発者、技術移転専門家、規制科学専門家、事業化推進人材など、それぞれの特色と専門性に対応した職種体系の整備が重要であると指摘しています。特にライフサイエンス分野では、規制当局との対話、臨床試験の設計・実施、薬事承認申請など、高度な専門知識を要する業務が多く、これらの分野で活躍できる人材の流動性向上とケーパビリティ強化が社会実装成功の鍵を握るとしています。また、産業界と学術界の間での人材交流促進により、双方向の知識移転と実践的な課題解決能力の向上を図ることの重要性を強調しています。
記事は、ライフサイエンス分野における人材の還流メカニズムの構築と、多様なケーパビリティを持つ専門人材の育成が、日本の科学技術イノベーション力強化の基盤となると結論づけています。