タイ憲法裁判所によるペートンタン・チナワット首相の資格喪失判決とその政治的影響について解説したものです。
憲法裁判所の判決内容
タイ憲法裁判所は8月29日、ペートンタン・チナワット氏の首相資格喪失を6対3の多数決で判断しました。同氏は7月1日に首相の一時職務停止命令を裁判所から既に受けていました。
申し立ての背景: 36人の上院議員が連名で申し立てを行った背景には、2025年6月18日にペートンタン首相とカンボジアのフン・セン上院議長との間で行われた国境紛争をめぐる電話会談の音声が公開されたことがありました。
争点となった電話会談
首相の説明: ペートンタン首相は音声が自身のものであることを認めたものの、「穏便な外交交渉を意図した私的な電話だった」と後に説明していました。
申立人の主張: 上院議員らは、首相としての責任を果たさず、カンボジア側の意向に沿う姿勢を示したことが、憲法に定める「誠実性の欠如」および「重大な倫理違反」に該当すると主張しました。
裁判所の判断: 少数意見では「重大な倫理違反には当たらない」として資格喪失を否定する意見もありましたが、多数意見において首相としての資格を欠いているとの認定がなされ、最終的に6対3の多数決で資格喪失が決定されました。
政治的影響と後継候補
内閣の失職: 首相の資格喪失に伴い、内閣全体も失職することになります。現内閣は暫定的に職務を継続しますが、新首相が選任されるまで数週間を要するとみられています。
新首相候補: 「バンコク・ポスト」紙によると、主要候補として以下の人物が挙げられています:
- プアタイ党からチャイカセム・ニティシリ氏
- ブムジャイタイ党のアヌティン・チャーンウィラクン氏
- 元首相のプラユット・チャンオチャ氏
政治的駆け引きと今後の見通し
アヌティン氏の動向: 英国系コンサルティング会社「VERO」によると、裁判所の決定直後からアヌティン氏は最大野党である国民党と会談を行い、4カ月以内の議会解散、カンボジアとの国境問題の解決などの条件を受け入れ、支持を取り付けました。
国会招集の見通し: これにより、9月第1週にも国会が招集される見込みとなっています。
専門家の見解: チュラロンコン大学の政治学者スティトーン・タナニティチョット氏は「新首相の選出は困難で、時間がかかる可能性がある」と指摘しています。
記事は、外交問題を発端とした司法判断が政治的混乱を引き起こし、タイの政治システムの不安定性と権力構造の複雑さを浮き彫りにした重要な政治的転換点であることを示しています。