米国の調査会社S&Pが8月1日に公表したレポートに基づく、ベトナムの2025年7月製造業購買担当者景気指数(PMI)の分析結果を解説したものです。
PMI指数の大幅改善
7月のベトナム製造業PMIは、前月の48.9から52.4へと3.5ポイント上昇し、4カ月ぶりに景気判断の節目となる50を上回りました。この回復により、ベトナム製造業は景気悪化局面から改善局面へと転換したことが確認されました。PMIは0から100の間で変動し、50を超えると前月比で改善や増加、50未満は前月比で悪化や減少を表す重要な経済指標です。
各構成項目の詳細動向
PMIを構成する項目を詳しく見ると、複雑な状況が浮き彫りになっています。輸出向けの新規受注は、米国関税措置による海外市場の混乱の影響により9カ月連続で縮小となり、外需の低迷が続いています。一方、国内需要の回復により全体の新規受注は4カ月ぶりに増加し、内需が外需の落ち込みを補う構造となっています。新規受注の拡大に伴い、生産量は3カ月連続で増加しました。
雇用情勢と今後の課題
雇用については、工場の生産能力に余剰があるため引き続き減少しましたが、そのペースは過去9カ月で最も緩やかとなり、雇用情勢の安定に向かいつつあることが示されました。S&P経済部門責任者のアンドリュー・ハーカー氏は、「ベトナムの製造業は、米国関税措置による影響を他のビジネス領域で補い、立ち直りつつある。一方、原材料の調達難がサプライヤーの納期遅延やコスト上昇を招いており、今後の成長に制約がかかる可能性がある」と分析しています。
米国市場の影響と今後の展望
ベトナムにとって最大の輸出先である米国では、関税引き上げに伴う価格転嫁の影響が消費者物価指数(CPI)に表れ始めるなど、経済減速の兆候も見られています。米国労働省が8月12日に発表した7月のCPIは前年同月比2.7%上昇と市場予想の2.8%を下回りましたが、価格変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は3.1%上昇し、引き続き物価上昇圧力がうかがえます。現時点では物価全体の急上昇には至っていないものの、企業による関税の価格転嫁が進む中、米国市場の動向への留意が必要です。
記事は、ベトナム製造業が米国関税措置の逆風の中でも内需回復により持ち直しの兆しを見せているが、サプライチェーンの課題や主要輸出先市場の不安定性が今後の成長制約要因になる可能性があると結論づけています。