経済産業研究所(RIETI)が発行した、COVID-19流行下における非薬物的介入(NPIs)が小売業績に与える影響について実証分析を行ったディスカッションペーパー(25-E-073)について解説したものです。
研究の目的と背景 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行により、政府は感染症対策と社会経済活動の両立という難題に直面しました。ワクチンや治療薬がない感染拡大初期において、行動制限や人流抑制などの公衆衛生的措置が必要とされる一方で、人との接触を抑制する感染症対策は社会経済活動の停滞をもたらしました。
分析手法とデータ 本研究では2019年1月から2021年12月までの小売業事業所の月次パネルデータを用いて、公衆衛生的措置による事業所周辺の滞在人口変化を通じた小売業績への影響を定量的に評価しました。執筆者は岩田真一郎(神奈川大学)と近藤恵介(RIETI上席研究員)です。
主要な分析結果 小売業事業所の商品販売額は、COVID-19流行以前から周辺の滞在人口の変動と強く相関していることが判明しました。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による介入は、事業所周辺の滞在人口減少を通じて小売業績の減少を引き起こしていました。興味深い発見として、公衆衛生的措置の有効性は介入ごとに徐々に低下していたことが確認されました。
政策的含意 2020年の最初の緊急事態宣言は、自粛を通じた行動変容の効果も考えられ、小売業績低下への影響が最も大きかったことが示唆されています。これは初回の政策介入が持つ特別な効果と、その後の政策効果の逓減という重要な政策的インプリケーションを提供しています。
記事は、COVID-19対策における公衆衛生政策と経済活動のトレードオフを実証的に分析し、政策の有効性が時間とともに変化することを定量的に明らかにした重要な研究成果であることを示しています。