カンボジアで約20年間運用が停止されていた徴兵法の実施が2026年1月から開始されることが決定され、東南アジア地域の労働市場と国際ビジネス環境に大きな影響を与える可能性が高まっています。フン・マネット首相の発表により、18歳以上30歳以下の国民が対象となり、男性は必須、女性は任意で、兵役期間は現在18カ月と定められていますが、今後24カ月に延長される見込みです。5月末のタイとの軍事衝突を背景とした両国間の緊張状態も、この決定の要因の一つとなっています。
カンボジアの人口約1,728万人のうち、徴兵対象年齢の人口は約382万人(全人口の22%)に達し、労働市場への影響は深刻です。重要な点は、徴兵対象者がそれまでの企業への所属を維持したまま兵役を行うことができ、24カ月間の兵役終了後に企業での勤務再開か国軍所属継続かを選択できることです。しかし、兵役期間中の国家社会保険基金(NSSF)の負担主体(企業か国か)がまだ決定されていないため、企業の人件費負担に関する不確実性が残っています。
この制度導入により、カンボジアは東南アジアで徴兵制を実施する6番目の国となり(シンガポール、タイ、ミャンマー、ベトナム、ラオスに続く)、地域の安全保障環境の変化を象徴しています。特に経済特区に進出している日系企業からは「人材不足への懸念」「徴兵期間中も雇用コストが発生する場合のサプライチェーン見直しの必要性」といった声が聞かれており、東南アジア地域での事業戦略の見直しを余儀なくされる可能性があります。
法制面では、僧侶、受刑者、健康上の問題がある者は徴兵対象外となり、徴兵通達後30日以内の手続き、3回まで保留可能(但し免除ではない)、義務違反者への最長5年の懲役といった詳細が定められています。徴兵法の改正に伴いこれらの詳細も変更される可能性があり、企業は継続的な情報収集と対応策の検討が必要です。
この動向は、地政学的リスクの高まり、労働集約型産業での人材確保の困難化、企業の東南アジア戦略の再検討など、多方面にわたる影響を与えることが予想され、特に製造業を中心とした日本企業の東南アジア投資戦略にとって重要な検討材料となります。