第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の一環として開催された「アフリカにおける持続可能・包摂的・対応力ある食料システムと地域経済の未来、ブルーエコノミーと農業の視点から」イベントにおける石破茂内閣総理大臣の挨拶について記録したものです。
挨拶の背景と開催意義
この挨拶は、TICAD9(第9回アフリカ開発会議)初日の2025年8月20日に行われたもので、笹川日本財団名誉会長、角南笹川平和財団理事長、鈴木ササカワ・アフリカ財団理事長をはじめとする関係者が出席しました。アフリカの食料安全保障と農業開発という、人間の安全保障実現において最も重要な課題の一つをテーマとして設定されました。
アフリカの食料安全保障の現状と課題
石破総理は、アフリカにおける食料情勢について具体的な分析を示しました。過去には農産物の生産量増加が見られる一方で、人口増加により消費量も著しく増加しており、特に米・小麦の多くを輸入に依存している状況を指摘しました。現在もアフリカでは労働人口の半分以上が農業に従事しているものの、単位面積当たりの収量は世界平均に届いておらず、農業生産性の向上が重要な課題であることを強調しました。
日本の食料自給率問題と共通課題の認識
総理は、日本も決して優位な立場にないことを率直に認め、カロリーベースでの食料自給率が38%という厳しい現実を明らかにしました。ただし、自給率が低い根本的原因は日本とアフリカで異なっており、この違いを踏まえた上でアフリカ諸国との協力により解決策を見出すことの意義を過去の農林水産大臣経験を踏まえて述べました。
アフリカ連合のフードバスケット構想への支持表明
2025年1月のアフリカ連合(AU)特別首脳会合で採択されたカンパラ包括的アフリカ農業開発プログラム宣言において打ち出されたフードバスケット構想について、日本政府として強い支持を表明しました。この構想は、アフリカ各地の特性を活かして地域別に優先作物を選定し、国境を越えて流通させることで、強靭な食料システム構築を通じてアフリカ大陸の食料自給率向上を目指すものです。
日本の協力実績と手法:ネリカ米開発の成功事例
具体的な協力実績として、ネリカ米の開発を詳しく紹介しました。これは、シエラレオネのジョーンズ博士の研究と日本人専門家の坪井氏との現場での実践が実を結んだ成果であり、「カウンターパートと一緒に汗を流す」という日本の現場主義の象徴的事例です。アフリカの農家に丁寧に栽培方法を伝え、種もみの提供から周囲農家への普及まで、草の根レベルでの協力により、現在ではアフリカ54か国中23か国で高品質米の収量増加が実現されています。
先進技術とブルーエコノミーの活用
TICAD9のテーマである「日本・アフリカ双方の強みを活かした解決策の共創」に沿って、最新技術の活用事例を紹介しました。衛星やセンサーから取得した圃場データをAI(人工知能)により分析し、最適な水や肥料の投入量・散布スケジュールを提供する技術や、アフリカの海洋資源を活かすブルーエコノミーアプローチの重要性を強調しました。日本の養殖デジタル技術やデータ管理ノウハウの提供、持続可能な漁業・養殖業振興、違法漁業対策における貢献実績を示しました。
JICA食料安全保障イニシアティブの具体的成果
国際協力機構(JICA)のアフリカ食料安全保障イニシアティブにおける具体的な数値実績を公表しました。2.5億人分の食料生産、9.2万人の栄養改善、小規模農家12万戸の所得向上等を通じて、アフリカの強靭な食料システム構築に協力していることを明らかにしました。また、JICAと世界銀行の協調融資によるアフリカの食料安全保障・栄養改善への貢献も継続していることを表明しました。
今後の連携強化とコミット
今後の協力方針として、アフリカ各国政府、アフリカ連合、アフリカ開発銀行、国際機関、民間企業を含む様々な関係者との連携強化を約束しました。日本の基本方針として「現地の皆様方と共に笑って、共に泣いて、共に汗を流していく」協力スタイルを堅持し、「金融資本主義でもなく、国家資本主義でもない」真のパートナーシップによる新しい世界の未来創造を目指すことを力強く宣言しました。
記事は、石破総理が日本の農業課題を率直に認めながらも、アフリカとの互恵的協力による食料安全保障向上への強いコミットメントと、技術革新と人材育成を通じた持続可能な発展モデルの共創を目指す日本の姿勢を明確に示していることを表しています。