本研究は、奈良県立大学の佐藤由美教授と国立保健医療科学院の阪東美智子上席主任研究官による、全国自治体における住宅部門と福祉部門の連携実態に関する包括的調査研究である。2024年の住宅セーフティネット法および生活困窮者自立支援法の改正を背景に、自治体における部門間連携の現状と課題を明らかにし、効果的な居住支援体制の構築に向けた方策を提示している。
研究の背景として、2010年代以降、住宅政策では「住宅セーフティネット」の拡充が、福祉政策では地域共生に向けた総合的・包括的な支援体制の整備が進められてきた。2023年度の国土交通省・厚生労働省・法務省合同検討会の中間とりまとめでは、住宅確保要配慮者への支援において、福祉施策と住宅施策の連携により、市区町村の住宅部局・福祉部局が主体的に連携した総合的・包括的な相談体制を構築することが提言された。
2019年に実施した全国164団体(回収率:住宅部局85.4%、福祉部局67.1%)への調査結果から、自治体住宅部門の重点施策として「住宅確保要配慮者の居住の安定の確保」が52.2%と最多であり、この比率は政令指定都市や関東大都市圏で特に高いことが判明。しかし、市町村住生活基本計画の策定状況を見ると、県庁所在市・東京特別区・政令指定都市・中核市では80%前後の策定率である一方、小規模都市では2~6割程度にとどまり、「住宅政策」そのものが存在しない自治体も見られた。
連携の実態調査では、「居住支援協議会における協議」を通じた連携が最も一般的であることが明らかになった。しかし、連携を阻む要因として、①部門間の情報共有不足、②組織横断的な連携体制の未整備、③専門人材の不足、④予算の縦割り構造、⑤住宅・福祉それぞれの専門性への相互理解不足が特定された。特に小規模自治体では、人材や予算の制約が深刻であり、公営住宅建設事業の減少に伴う住宅課の改編等により、住生活への支援が困難になることが懸念されている。
一方で、成功事例として、居住支援協議会や連携会議の設置、相談窓口の一元化、民間事業者との協働などの取り組みが、支援の実効性を高めていることも確認された。これらの好事例では、首長のリーダーシップ、専任組織の設置、地域の不動産・福祉等の主体との積極的な連携が成功要因として挙げられている。
研究は、今後の課題として、①部門間の連携・協働を前提とした制度設計とその柔軟な運用、②地域特性に応じた支援モデルの構築、③住民に身近な自治体行政における「住宅セーフティネット」の確立、④格差社会が拡大する中での福祉的視点を持った住宅政策の推進を提言している。本研究は、地域共生社会の実現に向けて、住宅と福祉の垣根を越えた包括的な居住支援体制の構築が急務であることを実証的に示した重要な成果である。