本研究は、日本社会事業大学専門職大学院の井上由起子教授による、高齢期と困窮状態が重なる層への居住支援に関する実証的研究である。2025年10月施行の改正住宅セーフティネット法を背景に、包括的居住支援体制の構築に向けた知見と課題を、福祉系の2つの居住支援法人の実践分析から明らかにした。
研究では、野村総合研究所(2016年)の居住資源マッピングを基に、「供給価格」と「生活支援」の二軸で整理した居住資源図を発展させ、高齢系・生活困窮系の重度者向け施設を含めた包括的な分析枠組みを提示。現在不足している居住資源として、①安価な家賃の住宅(支援・見守り不要)、②「施設」ほどではない軽度の支援付き住宅の2つを特定した。
調査対象とした2つの居住支援法人の住まい相談実態分析から、利用者の特徴として、単身世帯と生活保護受給者が多数を占め、精神障害を有する者が約3割存在することが判明。このため、転居先は一般賃貸住宅から支援付き住宅、養護老人ホーム、救護施設、無料低額宿泊所、障害者グループホームまで幅広い選択肢が必要となっている。
サブリース方式による支援付き住宅の有効性について検証した結果、緊急連絡先を確保できない者には有効だが、滞納歴等がある者への有効性は確認できなかった。また、支援付き住宅が提供する支援内容には幅があり、そのコストをサブリース差益で賄う仕組みには限界があることが明らかになった。
研究は、居住支援における重要な論点として、日常の生活支援と権利擁護に関わる支援の整理の必要性を指摘。さらに、「居住支援」の概念を「住まい支援」へと拡張し、賃貸住宅だけでなく福祉施設も含めた包括的な視点の重要性、そして「居住保障」へと発展させることで、より普遍的な社会保障制度としての位置づけを提案している。
本研究の意義は、従来の賃貸住宅中心の居住支援論から脱却し、福祉施設を含めた「特別な住まい」全体を視野に入れた包括的な居住支援体系の必要性を実証的に示した点にある。高齢化と貧困化が同時進行する日本社会において、実効性のある居住支援政策の構築に向けた重要な知見を提供している。