ジェトロの最新レポートによると、ベトナムのスタートアップVietnam Coffee Academy(VCA)は、独自のカーボンファーミング(炭素貯留農業)技術を活用し、高品質な有機コーヒー豆の大量生産と産地開発を実現している。同社は2023年3月に設立され、ザーライ省とホーチミン市に拠点を置き、「種からカップまで(Seed to Cup)」のコンセプトのもと、コーヒーの生産から加工、ブランディング、販売までを一貫して手掛ける包括的なエコシステムを構築している。2023年には日系VCのジェネシア・ベンチャーズがシードラウンドで出資を行った。
VCAの最大の特徴は、バイオ肥料を使用し地表の植生を維持しながらコーヒーを栽培する独自のカーボンファーミング手法にある。この農法により、土壌の健康状態を維持・回復させながら地中に炭素を蓄積でき、従来の農法と比較して生産量を2~3倍に増加させることが可能となった。さらに、日本の有機JAS制度、EUオーガニック認証、USDAオーガニック認証など国際的な有機認証を取得し、販売価格はベトナム平均より30~50%高い価格で取引されている。
現在、同社は自社所有の50ヘクタールと100軒超のパートナー農家の190ヘクタール、計240ヘクタールの農園を運営し、年間最大8,000トンの生産能力を有している。農家の協同組合(VCSC)を通じて農業ソリューションを提供し、トレーサビリティー・モニタリング・アプリケーションを活用して各農家の農地面積、生産量、品質情報を詳細にトラッキングしている。
創業者のグエン・フー・ロンCEOは、幼少期の貧困から日本人養父の支援で教育を受け、日本で農業とコーヒーを学んだ経験を持つ。2015年に「Shin Coffee」ブランドを立ち上げ、2019年にパン・グループに売却後、VCAを設立した。今後は2年間で生産面積を5,000ヘクタール、5年以内に50万ヘクタールまで拡大し、マカダミアナッツなど他の農産物への展開も計画している。ジェトロは、VCAのような革新的な農業技術とビジネスモデルが、ベトナムの約140万人の小規模コーヒー農家が抱える低品質・低生産性・低収入という構造的課題の解決に貢献し、持続可能な農業発展の新たなモデルケースになると分析している。