日本政策投資銀行（DBJ）が、電力需要増加と脱炭素化への対応として世界的に注目される原子力発電、特に小型モジュール炉（SMR）の動向と日本の産業戦略について分析したレポートです。
データセンターの急増により2030年の世界のデータセンター電力消費量は日本の総電力消費量に匹敵する約945TWhに達すると予測されており、電力需要への対応と脱炭素化の両立が急務となっています。このような背景から、COP28では日本を含む25カ国が2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍にする宣言を発表し、日本の第7次エネルギー基本計画でも原子力最大活用の方針が明記されました。
次世代革新炉の種類と特徴
次世代革新炉として注目される技術には、革新軽水炉、高温ガス炉、高速炉、小型モジュール炉（SMR）、核融合の5つがあります。革新軽水炉は既存技術をベースに安全対策を大幅強化した大型炉で商業炉に近い段階にあり、高温ガス炉は900℃前後の高温熱供給が可能で産業用途への応用が期待されています。高速炉はウラン利用効率を飛躍的に向上させる技術として開発が進められています。
SMRの特長と導入メリット
SMRは出力30万kW以下の原子炉で、受動的安全システムの採用や地下設置、小型化により過酷事故の発生確率を低減できる高い安全性を持ちます。建設期間の短縮、立地制約の緩和、モジュール式による工場量産化などの特長があり、特定需要家（データセンターや産業集積地）やオフグリッド地域（離島、僻地）での活用が期待されています。IEAは量産化が実現すれば2040年にはSMRの建設コストが大型炉を下回る可能性があると予測しています。
各国の取り組みと日本の産業戦略
現在世界では60タイプを超えるSMRが開発されており、特に軽水炉SMRは既存技術の知見やサプライチェーンを活用しやすいため社会実装で先行すると考えられています。米国では民間企業の積極的な取り組みに加えて規制や政策支援の整備が進んでおり、ハイパースケーラー企業もSMR導入に関心を示しています。
原子力サプライチェーンの観点では、西側諸国で長期間新規建設が途絶えたことにより1,000万点に及ぶサプライチェーンが崩壊の危機に瀕している一方、中国とロシアは政府主導で戦略的・継続的に強化を進めており、国際的な影響力を急速に拡大させています。
記事は、安全性への懸念や使用済み核燃料処理などの課題への真摯な取り組みを大前提としつつ、日本の脱炭素化、産業競争力強化、安全保障確保に向けて、先行海外プロジェクトへの参画など原子力分野での官民の継続的な取り組みが重要であると結論づけています。