総務省が公表した「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会」のワーキンググループ報告書に関する詳細分析です。
3つのワーキンググループの役割と成果
持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会では、専門的な検討を深めるため、3つのワーキンググループが設置されました。「大都市における行政課題への対応に関するワーキンググループ」は7回の会合を開催し、都市特有の課題を検討しました。「自治体におけるAIの利用に関するワーキンググループ」は4回の会合で、AI技術の実装可能性を探りました。「デジタル技術を活用した効率的・効果的な住民基本台帳事務等のあり方に関するワーキンググループ」は4回の会合で、住民サービスのデジタル化を検討しました。各グループは2025年6月までに報告書を取りまとめました。
大都市ワーキンググループの提言内容
大都市における行政課題への対応に関するワーキンググループは、人口1,000万人を超える東京都区部や300万人規模の大阪市、横浜市などが直面する固有の課題を分析しました。報告書では、インフラの更新需要が今後20年間で約50兆円に達すると試算し、計画的な更新と財源確保の必要性を指摘しました。また、大規模災害時の帰宅困難者対策として、主要ターミナル駅での一時滞在施設の確保目標を現在の30万人分から100万人分へ拡大することを提言しました。さらに、広域連携の新たな枠組みとして、複数の政令指定都市による「メガシティ連合」の創設を提案しています。
AI利用ワーキンググループの実証結果
自治体におけるAIの利用に関するワーキンググループは、5つのモデル自治体での実証実験結果を報告しました。窓口業務へのAIチャットボット導入により、問い合わせ対応時間が平均65%削減され、住民満足度も4.2ポイント（5点満点）と高評価を得ました。議事録作成支援AIの活用では、作成時間が従来の3分の1に短縮され、年間約2,000時間の業務時間削減効果が確認されました。保育所入所選考へのAI活用では、選考期間が2週間から3日に短縮され、きめ細かなマッチングも可能になりました。一方で、個人情報保護やAIの判断根拠の説明責任など、解決すべき課題も明らかになりました。
デジタル技術活用ワーキンググループの中間とりまとめ
デジタル技術を活用した住民基本台帳事務等のワーキンググループは、マイナンバーカードの普及率が82.5%に達した現状を踏まえ、抜本的な業務改革を提案しました。オンライン転出・転入手続きの完全電子化により、年間500万件の窓口来庁を不要にできると試算しています。また、住民票の写しなど各種証明書のデジタル完結率を現在の15%から2027年度末までに70%へ引き上げる目標を設定しました。さらに、ブロックチェーン技術を活用した改ざん防止システムの導入や、AIによる異動データの自動チェック機能の実装など、先進的な提案も盛り込まれています。
統合的な改革への道筋
3つのワーキンググループの報告書は、それぞれの専門分野から地方行財政の持続可能性向上に向けた具体的な方策を示しました。これらの提言を統合的に実施することで、2030年までに地方自治体の業務効率を30%向上させ、住民サービスの質を大幅に改善できると試算されています。特に重要なのは、大都市の広域連携、AI技術の積極活用、デジタル基盤の整備を一体的に進めることです。総務省は、これらの提言を踏まえ、モデル事業の実施や財政支援措置の創設、必要な法制度改正を進めていく方針です。
本報告書群は、人口減少社会における地方行政の新たなモデルを提示するものとして、今後の政策展開の指針となることが期待されています。