アイルランドの教育現場におけるデジタル化の取り組みと、エドテック企業による製品開発の事例について報告したものです。
アイルランド政府は2022年に「学校のためのデジタル戦略2022-2027」を策定し、すべての学習者がテクノロジーの恩恵を受けることができる未来と、デジタル世界で必要な知識・技能を習得する機会の提供を目指しています。政府は特に教師向けの研修に力を入れており、毎年夏に無料で研修講座を開講し、デジタル製品を使った教育方法を指導しています。ただし、学校でのデジタル製品導入の目標は設けておらず、導入するかどうかは各現場の判断に委ねられています。
導入実態としては、小学校(4-12歳)の方が中学校(12-18歳)よりも進んでいます。その理由は、小学校では基本的に同じクラスに対して1人の教師が全教科を教えるため教室移動がなく、デジタル機器を使いやすい環境にあるためです。デジタル製品が強みを有する教科として「歴史」「地理」「音楽」「言語」が挙げられ、アナログでは提供できないプラスアルファの情報を提供できることが評価されています。
アイルランドのエドテック企業の事例として、失読症(ディスレクシア)の早期発見を支援するゲームアプリ「ALPACA」が紹介されています。従来は6-8歳児を対象に紙とペンで1人あたり20分かけて実施していたテストを、入学直後の4-5歳児がタブレット端末で楽しみながら受験できるようにしました。ダブリンの聖コルムキル小学校では約2年前から導入し、教師の負担軽減、低学年段階での多くの生徒の受験、保護者の不安軽減などの効果を得ています。
ALPACA社は製品展開にあたり、「テクノロジーはただの手段」「人に取って代わるデジタル製品は好ましくない」という理解に立ち、教師との信頼関係構築を重視しました。創業から18カ月後の2025年3月時点で約600校が導入しており、創業者は日本での拠点設立や日本企業との連携に高い関心を示しています。
もう一つの事例として、就職や雇用をサポートするデジタル製品を提供するスキルズ・ビスタ社が紹介されています。同社は学生向けにキャリア適性テストや性格診断と大学のコースを結びつけ、さらに学習と労働市場のニーズも結びつけた製品を開発しました。
記事は、アイルランド企業がステークホルダーと丁寧にコミュニケーションをとり、ニーズの把握や懸念点の解決を図りながら製品開発・展開する姿勢が印象的であり、教育現場のデジタル化において技術と人の協働が重要であることを結論づけています。