ジェトロが発行した「『サプライチェーンと人権』に関する法制化動向(全世界編 第2版)」について、企業のサプライチェーンにおける人権尊重を義務化する世界各国の法制度を包括的に分析したものです。
2025年7月時点で、サプライチェーンにおける人権デューデリジェンスを法的に義務付ける国は15カ国に達し、さらに20カ国以上で法制化の検討が進んでいます。この動きは、2011年の国連「ビジネスと人権に関する指導原則」採択以降、着実に拡大しており、グローバル企業にとって無視できない経営課題となっています。
欧州では、2024年に採択されたEU企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)が最も包括的な規制となっています。従業員1000人以上かつ売上高4億5000万ユーロ以上の企業に対し、自社およびサプライチェーン全体での人権・環境リスクの特定、防止、軽減、救済措置の実施を義務付けています。違反企業には全世界売上高の最大5%の制裁金が科される可能性があります。
各国の特徴的な法制度として、ドイツのサプライチェーン法は2023年から段階的に適用され、2024年からは従業員1000人以上の企業も対象となりました。フランスの注意義務法は2017年から施行されており、民事責任を問える点が特徴です。英国は現代奴隷法に加え、環境デューデリジェンス法の制定も検討しています。
米国では、カリフォルニア州のサプライチェーン透明化法、ウイグル強制労働防止法などが施行されており、特に強制労働に関する規制が厳格化しています。アジアでは、日本が2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しましたが、法的拘束力はありません。一方、韓国やタイでは義務化に向けた議論が進んでいます。
企業の対応として、人権方針の策定、リスク評価の実施、サプライヤー監査の強化、苦情処理メカニズムの構築などが標準的な取組となっています。特に、ティア1サプライヤーだけでなく、ティア2以下の間接サプライヤーまで管理対象を拡大する動きが加速しています。
記事は、サプライチェーンの人権尊重が法的義務化の時代に入っており、日本企業も国際基準に準拠した体制構築が急務であることを示しています。