ジェトロが分析した米国の関税措置がASEAN諸国に与える影響について、ASEANの相互関税への対応策を検証した第3回レポートです。
ASEAN各国は、米国の保護主義的な通商政策に対し、地域内の経済統合深化と対外経済関係の多様化という二面戦略で対応しています。2025年1月に発効したRCEP(地域的な包括的経済連携)の完全実施により、ASEAN域内およびアジア太平洋地域での関税削減が進み、米国市場への過度な依存を軽減する動きが加速しています。
域内統合の深化では、ASEAN経済共同体(AEC)ブループリント2025の下で、非関税障壁の削減、サービス貿易の自由化、投資規制の緩和などが進められています。特に注目されるのは、ASEAN域内のサプライチェーン強化策で、「ASEANサプライチェーン強靭化イニシアチブ」により、重要物資の域内生産能力向上と相互補完体制の構築が図られています。
対外関係の多様化では、EU、インド、中東諸国との自由貿易協定(FTA)交渉が活発化しています。ASEAN-EU FTAは2026年の妥結を目指しており、実現すれば世界のGDPの約30%をカバーする巨大経済圏が誕生します。また、中東諸国との経済関係強化も注目され、UAEやサウジアラビアからの投資が急増しています。
個別国の対応では、ベトナムがEU・ベトナムFTAを活用して対EU輸出を拡大し、米国市場依存度を相対的に低下させています。タイは「バイオ・循環・グリーン(BCG)経済モデル」を推進し、高付加価値産業への転換を図っています。インドネシアは資源の高付加価値化政策により、原材料輸出から製品輸出への転換を進めています。
技術・イノベーション面では、「ASEANデジタルマスタープラン2025」の下で、デジタル経済の統合が進められています。越境ECの促進、デジタル決済の相互運用性向上、データローカライゼーション規制の調和などにより、域内のデジタル単一市場形成を目指しています。
課題としては、ASEAN各国の発展段階の差異による利害対立、インフラ整備の遅れ、規制の調和化の困難さなどが挙げられます。しかし、米中対立という外部環境の変化が、逆にASEANの結束を強める触媒となっている面もあります。
記事は、ASEANが米国の一方的な通商措置に対し、地域統合の深化と経済関係の多角化により戦略的自律性を高めており、この動きが地域の長期的な発展につながる可能性を示しています。