ベトナムのスタートアップ企業NamiTechが展開する音声AIソリューション事業について、その技術的特徴と市場展開戦略を詳しく解説したものです。
ベトナムにおけるAI活用の現状と将来予測
マイクロソフトが2025年4月に発表した世界調査によると、労働キャパシティ拡大にAIエージェントを活用する意向を示したベトナムのビジネスリーダーの割合は95%と全世界で最も高く、グローバル平均の82%、日本の79%を大きく上回っています。また、ワークフローやビジネスプロセスのAI自動化率も65%でグローバル平均46%を超えており、ベトナムの積極的なAI導入姿勢が明確になっています。
ベトナム国家イノベーションセンターの予測では、AIによる経済効果は2040年までに1,200億～1,300億ドルに達するとされ、このうちAI搭載製品・サービスに対する消費者需要創出が450億～550億ドル、生産性向上によるコスト削減が600億～750億ドルと試算されています。
NamiTechの事業概要と技術的強み
NamiTechは2022年5月にベトナムIT最大手FPTコーポレーションからスピンオフして設立され、2023年にティエンベト証券からプレシリーズAで200万ドルを調達しました。同社は非英語言語処理とバックグラウンドノイズキャンセリングに特化した音声AIソリューションを提供しており、主力製品は以下の5つです：
**雑音除去ソリューション「Crystal Sound」**は、AI技術により周囲の雑音や他者の声を除去し、Google Meet、Microsoft Teams、Zoom等の主要プラットフォームやCisco、Avaya等のコールセンターシステムとの互換性を持ちます。
**声紋認証「Voice DNA」**は、機械学習技術により最短2.5秒で高精度な本人確認を実現し、従来の繰り返し質問による認証プロセス時間を大幅に削減します。
**コンタクトセンター向け音声認識ソリューション「NamiSense」**は、顧客との会話音声を分析して要点を抽出し、感情分析や担当者パフォーマンスのスコア化機能を備えています。
**対面取引特化ソリューション「VoiceGate」**は、高精度な音声認識と話者識別機能により、銀行・金融・保険業界の対面取引で音声生体認証による本人確認と、生成AIによる契約内容理解度の検証を可能にします。
**会話型チャットボット「NamiGen」**は、生成AIを用いてカスタマーサポートとセールスコールの自動化を支援し、顧客データの学習により人間らしい会話を実現します。
市場展開戦略と課題
ベトナム国内では2020年開始の国家デジタル変革プログラムによりDXが加速し、銀行の85%がAI戦略を掲げ、金融機関の44%が過去1年間にAIを導入しています。ベトナムの金融サービス業界における会話型インテリジェンスとAI主導コミュニケーション市場は1億ドルと推定される一方、日本市場は数倍の規模を持ちます。
同社の課題として、BFSIセクター（銀行・金融・保険）が求める高精度とデータセキュリティ要件への対応、AI技術者の確保、ベトナムにおけるAIコストの高さ（人件費対比）が挙げられています。
海外展開計画
2025年6月にNamiTech Japanを設立し、現地パートナーとの提携強化と現地人材採用により、日本市場での音声AIリーディングプロバイダー地位獲得を目指しています。また、東南アジア各国（タイ、インドネシア等）では、ベトナムで確立した事業モデルの展開を計画しています。
記事は、非英語言語とノイズ環境に特化した音声AI技術により、ベトナムから世界市場への展開を図る同社の戦略と、資金調達・事業協業を通じた日本企業との連携への期待を示しています。