調査の背景と意義 経済産業省が2050年カーボンニュートラル目標の実現に向けて、日本の主要産業における脱炭素化への転換プロセスと課題を分析し、産業政策の方向性を検討するために実施した戦略的調査の報告書です。鉄鋼、化学、セメント、アルミニウム等のエネルギー集約型産業を中心に、技術革新、設備更新、事業構造転換の現状と将来展望を詳細に分析しています。
業界別脱炭素化進捗 主要産業の脱炭素化進捗率(2013年比CO2削減)は、鉄鋼業が18.7%、化学工業が22.3%、セメント業が15.2%、アルミニウム業が31.4%となっています。脱炭素技術への投資総額は年間1.8兆円に達し、特に水素還元製鉄技術開発に2,400億円、化学プラントの電化・効率化に3,200億円が投じられています。しかし、2030年目標(46%削減)達成には追加的な年間4.2兆円の投資が必要との試算結果が示されています。
技術開発と設備転換状況 革新的脱炭素技術の開発・実証状況として、水素還元製鉄は2030年商用化を目指し実証実験段階にあり、CO2を85%削減可能です。化学産業では人工光合成技術により基礎化学品の製造プロセス革新が進行中で、エネルギー使用量を従来比60%削減する見込みです。また、既存設備の省エネ改修により、平均的に15-25%のCO2削減効果が確認されており、投資回収期間は5-8年となっています。
政策提言と支援枠組み 産業転換促進に向けて、10年間で総額20兆円規模の「グリーントランスフォーメーション産業支援基金」の創設を提案しています。革新技術開発支援に年間2兆円、設備更新・転換支援に年間1.5兆円、人材育成・リスキリング支援に年間3,000億円を配分する計画です。また、カーボンプライシング制度の段階的導入により、2030年にCO2排出1トン当たり10,000円、2035年に15,000円の炭素価格設定を提案し、市場メカニズムを活用した脱炭素化の加速を目指すとしています。