この事例紹介は、中小企業基盤整備機構の中心市街地活性化協議会支援センター(まちかつ)が公表した、神奈川県秦野市における中心市街地活性化基本計画(中活法)を活用したまちづくりの先進事例です。令和7年3月に基本計画の認定を受けた秦野市の取組みと、計画実現に向けた課題、中活法を活用する背景について詳細に紹介しています。
秦野市は人口約16万人の内陸都市で、丹沢山系の豊かな自然と都心へのアクセスの良さを兼ね備えた立地特性を持っています。江戸時代には東海道の脇往還の宿場として栄え、富士山噴火後はタバコ栽培で発展し、その後は「きれいな水と空気」を活かした工業と住宅地として成長してきました。しかし、近年は中心市街地の空洞化が進み、平成12年に1,900人だった中心市街地の人口は令和2年には1,700人を下回る状況となっています。
基本計画では、秦野駅北口側26haのコンパクトなエリアを中心市街地と定め、①中心都市拠点としての都市機能の強化、②人々の暮らし・活動の中心となる通りの再生、③まちなか暮らしの推進、④地域資源の活用による持続可能なまちの実現という4つの課題に取り組んでいます。特に、県道705号の拡幅整備(令和8年度供用開始予定)を契機として、多世代交流拠点の整備と商業・業務の新たな核づくりを進めることが計画の中核となっています。
基本計画認定に至るまでの3年間の取組みは、特徴的な組織体制により進められました。「秦野駅北口周辺にぎわいのあるまちづくり協議会」(中活法の協議会)と「秦野駅北口にぎわい創造検討懇話会」(市民参画の場)の2つの会議体を設置し、懇話会で市民の思いやアイデアを抽出し、協議会でそれらをブラッシュアップするという明確な役割分担のもと、まちづくりビジョンの策定を進めました。
令和5年度には社会実験「はだののミライラボ」を実施し、県道705号沿いエリアと水無川沿いエリアで多世代交流・滞留の場を創出するイベントを開催しました。この社会実験では懇話会が実行部隊として活躍し、ビジョンの具現化に向けた実践的な取組みが行われました。
計画実現に向けた主要課題として、①空き店舗対策と商店街支援(特に住居一体型空き店舗の活用)、②活性化の担い手の発掘と育成(まちづくり会社の設立検討を含む)、③電子地域通貨「OMOTANコイン」の活用(34,000件超のダウンロード実績を活かした30~40代への情報発信)が挙げられています。
これらの課題に対応するため、中小機構の「まちづくりオンライン相談」を活用し、専門家から「目指す将来像の可視化」「中心となる人材の洗い出し」「持続可能な推進組織づくり」などのアドバイスを受け、今後の方向性として若手やキーパーソンによる勉強会や事例視察を通じた組織検討を進めることとしています。
秦野市が中活法を活用した理由は、総合計画のリーディングプロジェクト「小田急線4駅周辺のにぎわい創造プロジェクト」の実現と、県道拡幅整備を契機とした公民連携のまちづくりを推進するため、ハード・ソフト両面での各省庁の支援を一体的に受けられる制度が必要だったことにあります。時間をかけて市民の声を基本計画に取り入れ、まちへの思いを大切に育みながら推進している秦野市の取組みは、今後の中心市街地活性化のモデルケースとなることが期待されています。