香港における知的財産権保護の中核を成す「鑑定人制度」について、その仕組みと実態を詳しく解説したものです。
鑑定人制度の基本構造と法的位置付け
香港の模倣品対策は「鑑定人制度」を中心に構築されており、権利者が香港税関に登録した鑑定人が模倣品の真贋判定を担う独特の制度です。この制度では、税関が疑わしい商品を発見した際、登録された鑑定人が現物を確認して真贋を判定し、その結果に基づいて法的措置が決定されます。
鑑定人は権利者自身が務める場合もあれば、専門知識を持つ外部の第三者機関が担当する場合もありますが、いずれの場合も客観的かつ技術的な根拠に基づく判定が求められ、その結果の正確性が制度の信頼性を左右します。
鑑定人の具体的業務と実務上の課題
鑑定人の主要業務は真贋判定、詳細な報告書作成、裁判所での専門証言の3つに分かれます。真贋判定では原則として目視による現物確認が必要とされ、商品の材質、製造技術、デザインの細部まで詳細に検証します。
年間の模倣品摘発件数は約800~900件に上りますが、実際に裁判に発展するケースは摘発事例の1割未満にとどまっています。これは多くの場合、鑑定人の判定結果に基づく行政処分や示談で解決されることが多いためです。
粤港澳大湾区との連携強化
香港の鑑定人制度は、中国本土の深圳、広州等で構成される粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)の税関当局間での情報共有システムと連携しています。これにより、香港で発見された模倣品情報が大湾区全体で共有され、広域での取り締まり強化が実現しています。
この広域連携により、従来は香港単独では対処困難だった大規模な模倣品流通ネットワークに対しても、効果的な対策が可能になっており、知的財産権保護の実効性が大幅に向上しています。
企業の実務対応と制度活用のポイント
権利者である企業が制度を効果的に活用するためには、複数の鑑定人の登録が重要です。異なる専門性を持つ鑑定人を複数登録することで、多様な模倣パターンに対応でき、迅速な判定が可能になります。
また、税関当局との継続的な連携を通じて情報交換を密にし、模倣品の最新動向を把握することが効果的な対策につながります。ただし、鑑定過程で得られる情報の管理には細心の注意が必要で、競合他社の商品情報や税関の捜査手法等に関する機密保持が求められます。
制度の特徴と今後の展望
香港の鑑定人制度は、権利者の専門知識を直接活用することで、従来の行政主導型とは異なる実効性の高い模倣品対策を実現しています。特に、現物確認による精密な判定と、専門家による客観的評価の組み合わせにより、誤認逮捕や冤罪のリスクを最小化しながら、真の模倣品を確実に摘発する仕組みが確立されています。
記事は、香港の鑑定人制度が単なる取り締まり手法を超えて、権利者と行政が協働する知的財産権保護の先進的モデルとして、アジア地域での模倣品対策に重要な示唆を提供していると評価しています。