ジェトロが提供する「オーストリア貿易投資年報(2024年版)」は、同国の最新の経済動向、貿易統計、投資環境を包括的に分析した報告書です。
オーストリア経済は2024年に実質GDP成長率が前年比1.2%減となり、第2次世界大戦以降最長の不況が継続しています。10四半期連続のマイナス成長を記録し、個人消費の低迷と工業生産の不振が主な要因となっています。失業率は7.0%に上昇したものの、欧州基準では良好な水準を維持しています。消費者物価上昇率は2.9%に低下し、インフレ圧力は緩和傾向にあります。一人当たりGDPは56,915米ドルと高い水準を保っています。
貿易面では2024年に輸出が前年比4.8%減の1,910億400万ユーロ、輸入が6.1%減の1,892億6,400万ユーロとなり、17年ぶりに貿易収支が17億4,000万ユーロの黒字に転換しました。主要輸出品目は機械・輸送機器(輸出全体の41.2%)、化学製品(12.8%)、金属・金属製品(9.7%)となっています。地域別では EU向け輸出が全体の68.5%を占め、特にドイツ向けが29.1%と最大の貿易相手国となっています。
対日貿易では輸出が前年比11.0%減の15億8,200万ユーロ、輸入が11.3%減の24億8,800万ユーロとなり、対日貿易赤字は11.7%減の9億600万ユーロに縮小しました。日本からの主要輸入品目は自動車・同部品(輸入全体の52.3%)、機械類(18.7%)、光学・精密機器(8.9%)で、日本向け輸出では機械・輸送機器(39.4%)、化学製品(21.2%)、金属製品(15.6%)が主力となっています。
直接投資では対内直接投資が前年比69.8%増の106億5,700万ユーロと大幅に拡大し、ドイツ(35.2%)、オランダ(12.8%)、スイス(9.1%)からの投資が上位を占めています。主要投資分野は金融・保険業(28.4%)、製造業(23.7%)、情報通信業(15.9%)となっています。対外直接投資は7.8%増の116億3,000万ユーロで、中東欧諸国向けが全体の41.3%を占めています。
投資環境では法人税率が23%(EU平均25.4%を下回る)、研究開発税制として最大14%の税額控除制度があり、イノベーション促進のための優遇措置が充実しています。労働コストは製造業で時給28.7ユーロ(ドイツの83.2%水準)と競争力があり、高技能労働力の確保が可能です。
産業政策では「オーストリア2030戦略」により、デジタル化・グリーン化に年間約34億ユーロの公的投資を実施しています。特に再生可能エネルギー分野では2030年までに電力需要の100%を再エネで賄う目標を設定し、風力発電容量を現在の3.6GWから7.2GWに倍増させる計画です。
日本企業の投資機会としては、機械・輸送機器分野での技術協力、医薬品・バイオテクノロジー分野での研究開発拠点設立、デジタル技術を活用したスマート製造業、環境技術・再生可能エネルギー分野での事業展開などが有望とされています。現在、オーストリアには約120社の日系企業が進出し、従業員数は約1.8万人に達しています。
記事は、オーストリアが一時的な経済低迷にありながらも、安定した政治環境、発達した法制度、EU市場へのアクセス拠点として、日本企業にとって中長期的に魅力的な投資先であると評価しています。