中国における労働者の休息・休暇権をめぐる争議の増加と複雑化について、北京市人民法院の報告を基に分析し、働き方改革の現状と課題を論じたものです。
主要なポイント
1. 休息・休暇権争議の急増と実態
- 北京市第三中級人民法院で2022-2024年に審理した労働争議11,440件中、休息・休暇権関連が4,942件(43.2%)
- 法定年次有給休暇が3,479件(70.4%)、残業代が1,740件(35.2%)、病気休暇が227件(4.6%)
- 訴訟の88.6%が一般職(工場作業員、ドライバー、セールス、経理等)に集中
- 管理職や高度専門職でも休息・休暇争議が近年増加傾向
2. 「隠れ残業」の常態化
- オンラインツールやSNS(WeChat等)を利用した業務連絡による「隠れ残業」が拡大
- 仕事とプライベートの境界が曖昧化し、休息時間が細切れ化
- 使用者による規則等に基づく休暇権利の制限が598件(12.1%)
- 休暇申請への不合理な拒否が421件(8.5%)、休暇取得を理由とする契約解除が390件(7.9%)
3. 政府による働き方改革の推進
- 2024年7月の中央政治局会議で「内巻き型の悪性競争防止」方針を提示
- 2025年3月に「消費促進特別行動方案」発表、休息・休暇権を重点施策化
- 企業に対して非効率的で重複する業務の削減を明確に要求
- 悪性競争による過酷な残業の改善を重要政策課題として位置づけ
4. 大手企業の対応事例
- 美的グループ:「6項目の禁止令」発表、午後6時20分以降の残業禁止
- DJI(大疆創新科技):「残業禁止運動」開始、残業時間を21時までに制限
- ハイアール:完全週休二日制導入、土曜出勤禁止、平日残業も1日3時間以内に制限
- ただし、実際には「仕事の持ち帰り」で対応している実態も存在
5. 残業の実態調査結果
- 「ほぼ毎日残業」38.7%、「週2-3回」21.9%、約7割が定期的に残業(智聯招聘調査)
- 残業原因:「業務量過多」50.1%、「緊急プロジェクト」46.1%、「上司の突発的指示」36.3%
- 40.1%が「ほぼ毎日24時間オンコール状態」、中間管理職では49.6%
- 残業手当「一切支給なし」30.0%、「具体的補償あり」は26.5%のみ
記事は、政府や大手企業による働き方改革の取り組みにもかかわらず、「隠れ残業」の増加や仕事の持ち帰りなど、問題の本質的解決には至っていないと結論づけています。