東京都健康長寿医療センター研究所が2025年7月30日に公表した労働安全と健康維持に関する研究成果で、高齢労働者の増加と働き方の多様化を背景に、年齢に関係なく楽しく安全に働き続けるための実践的な指針を示した重要な労働衛生研究です。本研究は、同研究所の社会参加と地域保健研究チームが、企業との共同研究と疫学調査に基づいて実施しました。
研究の背景として、日本の労働人口の高齢化が急速に進行しており、65歳以上の就業者数は約900万人（全就業者の約13％）に達しています。また、定年延長や継続雇用制度の普及により、従来の定年後も働き続ける労働者が増加しています。一方で、加齢に伴う身体機能の変化や健康リスクの増大により、労働災害や健康障害の発生パターンも変化しており、新たな予防対策の必要性が高まっています。
身体機能の加齢変化と労働への影響について、筋力は20歳代をピークに年間約1％ずつ低下し、60歳代では20歳代の約70％程度となります。視力・聴力も段階的に低下し、反応時間の延長や認知機能の変化も見られます。しかし、これらの変化は個人差が大きく、適切な健康管理と作業環境の調整により、高齢者でも安全で効率的な労働が可能であることが実証されています。
安全な労働環境づくりのポイントとして、照明の改善（若年者の1.5-2倍の明るさ確保）、段差の解消・手すりの設置、作業台の高さ調整、重量物取扱いの軽減・補助具活用等の物理的環境整備が重要とされています。また、作業手順の標準化、危険箇所の可視化、定期的な安全教育の実施等の管理的対策も効果的です。
健康維持のための実践的アドバイスでは、定期的な運動習慣の維持（週150分以上の中強度運動）、バランスの良い食事（特にタンパク質の十分な摂取）、充分な睡眠（7-8時間）、ストレス管理等の生活習慣改善が基本となります。職場では、こまめな休憩（1時間に5-10分）、水分補給の励行、同僚とのコミュニケーション促進等が健康維持に有効です。