マイクロフィルムの生産終了に伴う図書館資料保存の課題と対応策について解説したものです。
製造会社の生産終了発表と影響
富士フィルム株式会社より、マイクロフィルム(感材)が2025年12月26日に、マイクロフィルム処理薬品が2026年3月27日に最終受注となることが発表されました。フィルム感材には2年程度の使用期限があるため、「買いだめ」による対応は不可能であり、今後2年程度で国内のマイクロフィルム作成が事実上不可能になります。
アジア経済研究所図書館では、開発途上国の現地情報重視の方針から新聞や統計資料を重点収集し、紙の劣化と保管スペースの問題解決のため長年これらをマイクロフィルム化してきました。同館は日本国内でも有数のフィルム所蔵数を誇る図書館として、蓄積された保存活動の知見を他館との共有に活用する方針です。
マイクロフィルムの保存媒体としての特性
長期保存性と信頼性: 1990年代から使用されるPETベースフィルムは、温度21℃以下・湿度30%以下の条件下で500年の保存が期待できます。改変が極めて困難で記録の信頼性が高く、電力や特殊機器を必要とせずルーペと光があれば閲覧可能という災害時を含めた可読性が担保されています。
電子化との比較: 電子化は検索性・アクセス性に優れる一方、改変リスクやシステム更新に伴うマイグレーション管理の課題があり、適切な管理ができなければ閲覧不可能になるリスクも存在します。現状では新聞などの大型資料や劣化資料の電子化費用はマイクロフィルムの倍以上になることも多く、コスト面でも課題があります。
劣化フィルムの複製問題と対応戦略
1990年代半ば頃まで使用されていたTACベースのマイクロフィルムは「ビネガーシンドローム」という劣化現象が発生します。べたつきやうねりなどの劣化が見られるTACフィルムは直接電子化できず、スキャナー機器の破損リスクや画像の歪み・欠損が発生するため、まずPETベースフィルムに複製後に電子化する必要があります。
緊急対応の必要性: 今後2年以内に希少性・重要性の観点で優先度の高い劣化フィルムをPETフィルムに複製することが不可欠です。同館の経験から、作成から50年以上経つTACフィルム(1975年以前作成)では劣化が顕著であることが確認されており、これらを他館等に代替がない場合に優先対象としています。
アジ研図書館の三段階保存方針
第一段階: 1975年以前に作成されたTACベースフィルムで他館等に代替がないものを対象に、希少性・重要性を勘案して優先順位を定め、今後2年間で複製すべきものを選定する。
第二段階: TACとPETフィルムの分離など保存環境の整備を進め、劣化の進行を可能な限り抑えるとともに、将来的な電子化に備える。
第三段階: 保存の必要性が乏しいと判断されるフィルムについては、廃棄も含めた「保存しない」という選択肢も検討し、限られたリソースの有効活用を図る。
記事は、マイクロフィルムの生産終了という現実に直面し、各図書館が所蔵状況や利用実態に応じた優先保存対象の判断と、現実的で持続可能な保存戦略の構築が急務であることを示しています。