調査の背景と目的 経済産業省がデジタル経済の急速な拡大に伴い、国際的なデジタル貿易ルールの形成において日本の立場を強化し、国内デジタル産業の競争力向上を図ることを目的として実施した戦略調査の報告書です。WTO電子商取引交渉、CPTPP、日米デジタル貿易協定等の多国間・二国間枠組みにおけるルール形成プロセスを分析し、日本企業の海外展開支援策を検討しています。
デジタル貿易の市場動向 世界のデジタル貿易額は前年比18.4％増の3.8兆ドルに達し、このうち日本の占める割合は8.3％（3,154億ドル）となっています。特にデジタルサービス輸出では前年比22.7％増の980億ドルを記録し、ゲーム・エンターテインメント分野が32.1％、フィンテック・決済サービスが28.9％を占めています。一方、データローカライゼーション要求により日本企業の42.6％が海外事業展開に制約を受けており、年間機会損失額は推計1,200億円に達しています。
国際ルール形成の現状と課題 デジタル貿易に関する国際ルールは断片化が進行しており、83の異なる協定・枠組みが併存している状況です。主要な論点として、データの自由な流通（62ヵ国が支持、28ヵ国が制限）、データローカライゼーション禁止（47ヵ国が支持、33ヵ国が留保）、ソースコード開示要求の禁止（52ヵ国が支持、25ヵ国が反対）で各国の立場が分かれています。また、AI・アルゴリズムの透明性要求、プラットフォーム規制、暗号技術の輸出管理等の新たな課題が浮上しています。
戦略提言と政策方針 デジタル貿易ルール形成における日本のリーダーシップ強化に向けて、年間300億円規模の「デジタル貿易戦略推進プログラム」の創設を提案しています。多国間交渉への専門人材派遣・育成に100億円、企業の国際展開支援に120億円、新興国との技術協力・能力構築支援に80億円を配分する計画です。また、2030年までに日本主導のデジタル貿易ルールを20ヵ国以上で標準化し、日本のデジタルサービス輸出額を現在の980億ドルから2,000億ドルに倍増させることを目標としています。さらに、信頼性のあるデータ流通圏（DFFT：Data Free Flow with Trust）の構築を推進し、価値観を共有する国々との連携強化を図るとしています。