アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスの労災補償保険制度における遺族補償年金について、日本の制度との比較を念頭に調査したものです。
主要なポイント
1. 研究の背景と目的
- 日本の労災保険では夫が遺族の場合は55歳以上または障害があることが要件だが、妻が遺族の場合は特段の要件なし
- この制度設計は男性が主たる家計の担い手との考えに基づき、不当な男女差を生じさせているとの指摘
- 主要4か国の労災補償保険制度における遺族補償年金相当制度の情報収集を実施
- 文献調査により各国の制度概要や受給状況等を調査
2. 各国の労災補償保険制度の特徴
- アメリカ:州ごとに異なる制度、使用者に保険加入義務、事業主のみが保険料負担(一部州除く)
- ドイツ:業種別同業者組合による運営、無過失責任に基づく公的給付、事業主の単独負担
- フランス:社会保障制度に統合、使用者の無過失労災補償責任から発展
- イギリス:1980年代に労災補償制度を廃止し一般の社会保障給付に統合
3. 男女間の受給条件格差の解消
- アメリカ:1980年連邦最高裁が男女差を違憲と判示、憲法修正第14条の平等保護条項に反するとして州法改正
- ドイツ:1985年憲法裁判決を受けて法改正、女性の就労率上昇や保険料拠出の不平等を指摘
- フランス:2003年に性別による受給要件の区別を撤廃、女性の社会進出が背景
- イギリス:1999年法改正により男女間の受給条件差を解消、女性も一定期間後の就労を求める制度へ
4. 給付内容の国際比較
- 給付対象:各国とも配偶者・子供を対象、扶養要件は国により異なる
- 給付水準:生前賃金の30~66%程度が一般的、国により幅がある
- 給付期間:配偶者は再婚まで・終身・最長2年など多様、子供は18~27歳まで
- 上限設定:複数受給者の場合、生前賃金の80~85%を上限とする国が多い
記事は、調査対象の4か国すべてが遺族の性別による給付の違いを設けておらず、今後の日本の遺族補償年金制度の在り方に関する議論の参考資料となると結論づけています。